7月17日

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7月17日

LEDライトに照らされた部屋は、明るくなった分、その古さが際立っていた。 「サンキュ」 「おう」 天井で頭を打たないよう椅子から降りる様子は、端から見れば不格好だ。 「これまだ点くんでね?もったいない」 体が大きいと、余計に。 「もう何年も替えてねえから、いつ消えるかわからんで。安いときにLED買えたけえ、リョウちゃんお願いしようと思てたんよ」 舞ったホコリを掃除機で吸ってから、夕食の準備に取りかかる。 「ちゅーかお前、稼ぎあんなら引っ越せや。学生でもねえのにこんなボロ屋」 雫が洗面器を叩く音が響く。いつ雨が降るかわからないこの時期、むやみな物の移動は危険だった。 「別に困っとらんよ。引っ越す方が面倒だね。時間も金も手間もかかる」 歩く度にミシミシと鳴る床は、慎重に歩く。 「俺やってギリギリやけえ、大変なんはわかっけど」 「貯金に回したら、家賃はここがギリギリなんよ」 「はあ?いくら」 素直に答えると、顔をしかめた。それで家賃払え、と。 「おばさんが困っとったぞ。帰ってこんどころか、連絡も寄越さんて」 お前が電話に出んから、俺のとこにかかってくるんやぞ。 「リョウちゃんが出せ言うから出したやんか、年賀状」 「いつや、それ。もう7月やぞ」 おばさんが可哀想やないか。 とんだ兄貴ヅラである。実際、4歳年上の彼を追って上京したので、間違いではないけれど。 「実際帰ったところで、腫れモン扱いされるだけやんか」 「またそんな」 天井を見上げると、真っ白に光ったLEDライトが、天井の木目をオシャレに仕上げていた。 「...」 「やろ?」 東京は世界の全てではないし、日本の全てでもない。しかし、他の地域と全く同じというわけにはいかないらしい。 自分にそのつもりはなくても、一度この地で生活を送った者は「染まった」と思われる。家族であっても感じてしまう妙な壁が不快で、実家に寄りつかなくなった。 「やけん、リョウちゃんくらいでちょうどええと思うんよ、私」 定期的に、自分の言葉で語り合える相手。家族でもないので押しつけがましくもなく、気楽だけど頼りになる相手。 「何それ、告白?」 東京の日
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