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7月18日
大きく見開かれた目に、先程の言葉を思い出す。
そんなんやないよ。
瞳を覗き込む勇気は無かった。
恋愛感情とか好きとか、意識する前から近くにいた。
洟垂れで泣き虫で、そのくせ口も性格も強気な、生意気な妹分。
「リョウくん、この子のこと、頼むわね」
50m近く離れた隣家に住む女の子の手を、頼まれるまま繋いでいた。
人のいない限界集落は、イコール人目につかない場所ともいえる。
彼女が変質者に遭ったと聞いたのは、中学に上がってすぐのことだった。
狭くて人付き合いの密な田舎では、すぐに話が広まってしまう。
「リョウくん、あの子、大学は東京がええとか言うんよ」
東京で就職を決めて帰ってきたとき、彼女の母親に打ち明けられて、思わず頷いてしまった。居心地の悪さを感じていたことは、何となくわかっていたからだ。
「あの子のこと、お願いしてもええ?」
東京は人が多い分、人間が人目を避ける壁になる。人が多い分、数として悪い人も多くなる。
母親の心配としては、当然だった。
「ええよ。そんなしょっちゅう見てられんと思うけど」
その割には月に一度、「生存確認」を続けている自分は、マメな人間だ。
リョウちゃんぐらいでちょうどええとおもうんよ、私。
昔の経験から男性と距離を置きたがる彼女からすれば、最大の賛辞なのだ。
知っている。
自分は気を許せる友人で、兄貴なのだ。
しかしそうなら、キャミソール1枚で出迎えるような真似はしないで欲しい。絶対にないが、他人にもそう接しているのだと勘ぐってしまう。
押し倒されたままの彼女は、眩しそうに目を細めた。替えたばかりのLEDライトだろうか。
左手首を解放して、そのままサマーグリーンの布に覆われた膨らみに手を伸ばした。
「んんっ」
驚きで揺れた身体を、惜しむことなく自由にした。
「そんなんやないんなら」
顔を背けたのは、今の自分の顔を見られたくなかったからだ。
「今すぐTシャツ着ろや。エアコンの温度、下げるからな」
そんなんええよ、勿体ないやん。リョウちゃんやで?
どこかでそんな反応を、望んでいたのかもしれない。
「うん」
素直な返答に、唇を噛みしめた。
防犯の日
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