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7月20日
ボールペン1本でまとめられた髪の毛に、今回も感嘆する。あまりの早業に何度見ても理解できないくせに、こうして完成形を見せられると、ほどいてみたくなる。
我慢する代わりに、露わになったうなじに頬を寄せる。
「何見てるの?」
「うわっ」
首すじと肩が弱点の彼女には、背後から腕を回した方が効果的だ。驚く声に色気はないけれど、揺れる肩が愛らしい。
しかし今回はタイミングが悪かったようで、タブレット端末が鈍い音を立てて床に落ちた。
「もーっ」
傷がないか床と端末に集中している内に、お詫びのアイスコーヒーを注いでおく。ミルクで割っておくことも忘れない。
「パジャマ、買うの?」
キッチンを出るタイミングで、先に声を掛ける。口元を歪めた彼女は、怒りを息にして吐き出した。傷がついていなくてよかったと思う。
「セールのメルマガがきてたから、見てただけ。あのTシャツも古いし」
お礼を言わずにコーヒーを受け取った彼女だが、ソファの左隣に座ることは許してくれた。さっき触り損ねた、腕やショートパンツから出た太股に腕を伸ばす代わりに、タブレットを受け取る。
「へえ、いいんじゃない」
俺としては大賛成である。色あせて裾がほつれたTシャツを部屋着にしていると知ったときは、さすがにドン引いたし。それに
「睡眠の質とか、そろそろ考えた方がいいのかなって」
「へえ」
物持ちのいい彼女のことだから、5年くらい着そうだ。
どうせなら、セール対象外でも脱がせやすい方が...
「着ないからね」
「ハイ」
タブレットを取られたので、机の上に放置していたアイスコーヒーに手を伸ばす。汗をかいたグラスは机に雫を残し、グラスの中は溶けた氷が上澄みを作っていた。
「でも、まだ時間はあるしゆっくり考えればいいかな」
「いやいやいやいやいや」
「えっ、なに?」
それって買わないパターンだよね?もういいでしょ、あのTシャツ。俺が初めて見た時からボロかったのにさ、それから何年着てるのよ。高校の文化祭のTシャツに、何の未練があるのよ。絵柄もダサいし。
言葉にできなくて百面相している俺を見て、彼女は腹を抱えて笑っている。
背中にクラスメイトの名前を書かれても俺にはわからないんだから、もうやめてよ!!
Tシャツの日
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