7月4日

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7月4日

今日って何曜日でしたっけ、とでも尋ねるような口ぶりだった。 「京治(けいじ)さんって、私のどこが好きになったんです?」 「なっ、なんで?」 想定外の質問に声を揺らすくらい、許して欲しい。ハンドルが揺れるより、ずっとましだ。 「だって京治さんの好きなタイプって、グラマラスな可愛い系でしょ」 「うええっ!?」 慌ててブレーキを踏んだおかげで、シートベルトにロックがかかった。助手席の彼女も、面倒くさそうにシートベルトを着け直している。いや、信号無視しなかっただけ許して。 「なっ...なんで」 「単純な興味です」 なんて失礼な興味だろう!即答した彼女は、顎に手を当てて考え込んでいる。 「録画してるドラマによく出てる女優さんって、駆け出しの頃はグラビアもやってたんですよね。気にしている女子アナとか、街で見かけている女性とかも、似たようなタイプですし」 胸、Dはありますよね。 これは嫉妬ではなく、ほんとうに「単純な興味」の考察パターンである。喜ぶべきか否か、非常に困る事態である。冷や汗を誤魔化すように、アクセルを踏み込んだ。 「片や私は凹凸のない体ですし、可愛い系...ではないと思うんですよ」 確かに、ベルトで強調された胸元の膨らみは、小さい。しかし、シンプルなシャツワンピースは彼女によく似合っていた。 「そうかな?可愛いと思うけど」 メイクや服装が大人っぽいのは、年上の自分に合わせたもの。高身長で大人びた自身の雰囲気にも、合っているのだろう。一方で、差し出されたハンカチに人気キャラクターが描かれていたり、人気のショートケーキのために車を出して欲しいというおねだりは、愛らしさがあるけれど。 「そういう話じゃないんです」 では、どういう話なのか。 渋滞にはまったついでに、天を仰いだ。 「じゃあ、(つむぎ)は俺のどこが好きですか」 「えっ?」 「ずるいでしょ、俺ばっか答えるの」 視線で答えを促すと、彼女は何かを呑み込んだ。目は言っている。「私はまだ何も答えてもらってませんけど」。 音楽を切ると、こちらのものだ。当てつけの溜息くらい、気にしてはいけない。 「...京治さんって、かっこいいじゃないですか。大人で、頼りになるし」 「そう」 じゃあ、俺もそういうことで。 「えっ!?」 京治さん、ずるいです。どういうことです?ちょっと! こみ上げてくる笑いを必死に堪えながら、運転に集中する。 だから、そういうことなんだって。 梨の日
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