2人が本棚に入れています
本棚に追加
7月5日
投げかけられた質問に、顔を上げた。
「どうしたんです、急に」
数学の問題集は、まだ半分も埋まっていない。向かいの問題集は、ほぼ白紙だった。
「俺、ヘンなこと訊いた?」
やっぱり2年生の内容は難しいのかな、なんて一瞬でも考えた自分が馬鹿だった。図書館デートしたいから自習道具持参ねなんて言っておきながら、スマホを弄っている。
「...スマホ、使用禁止ですよね」
「バレなきゃいいって」
テスト期間明けの自習コーナーは、ほぼ貸し切り状態だった。
「それ、犯罪者と同じ言い訳ですよね」
「ここ、私語も禁止じゃなかったっけ」
思わず出た舌打ちに、室内中の注意が集まった。教材を鞄に詰めて、乱暴に立ち上がる。
「でしたね」
馬鹿みたいだ。教室に押しかけられて告白を受けるシチュエーションが、少女マンガみたいだと浮かれていた自分が。付き合うようになってからバレー部のエースだと知って、インターハイ予選の応援に詰めかけた自分が。初めてのデートだからと、窓を見つけるたびに制服の着こなしをチェックしていた自分が。
「ごめんって」
追いかけてきてくれたことに、安心している自分が。手渡されたミルクティーで、許してしまいそうになっている自分が。
「...お喋りがしたいなら、もっと場所があるじゃないですか」
「うん」
「図書館なんて、いちばん向いてませんよね」
「うん。でも、制服デート、してみたかったから」
制服デートはできる期間が限られてるし...。放課後そのまま街歩くの、好きじゃないでしょ。
妙に的を射たことを言ってくるので、頷いてしまう。
「ちゃんと家まで送るから、許して」
これだと、癇癪持ちのチョロい女じゃないか。
バスを乗り継いで、歩いて15分。お喋りには、もってこいだ。
車内の冷房に、目を細める。汗ばんだ肌を、冷気が心地よく包んでくれる。
しかし浸る間もなく、熱気が襲ってくる。隣りに人が座ったのだ。
前も後ろも空いているのに、とは思わない。一瞬感じた違和感も不快感も、目が合えば有耶無耶になっていく。
「次のデート、海とプール、どっちがいい?」
「そんな時間あるんですか」
「ない」
夏休みに入ればすぐに合宿で、間を置かずに春高の予選が始まる。
抱えたリュックに顎を置いてぶつぶつ呟く姿は、図体に似合わず幼い。
「海は塩と砂、プールは他人が入っているから気持ち悪いとか言うと思った」
「あー...わかります?」
ふははっと笑う様子を、焼き付ける。次この距離で見られるのが、いつになるかわからないから。
「ちなみに、どっちです?」
「海なら白、プールなら黒かな」
したり顔であっさりと答えてはくれたが...
「何の話です?それ」
ビキニスタイルの日
最初のコメントを投稿しよう!