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7月6日
スーパーには、お惣菜に冷凍食品。街に出れば、飲食店がしのぎを削っている。だから料理なんてできなくても生きていけるのだと、本気で思っていた。
今、猛烈に後悔している。
「実家にいるうちに気づけてよかったじゃない」
母は、歌うように鶏肉を揚げていく。
「これで大学は県外なんて言われると困ると思ってたのよ。ヨウくんには感謝しないと」
黒く焦げた卵焼きは、自分の心中を具現化している。
「今から頑張れば、2年後には自炊も彼氏の胃袋も掴める女子大生になれるわよ」
母はホホホと呑気に笑うが、部活と勉強で手一杯の自分にそんな余裕はない。そもそも、包丁は危ない火も危ないと台所に立ち入らせなかったのは、この母親なのだ。
苛立ちを押さえつけるように、弁当の蓋を押し込む。
「モモ」
もう何!?
睨んでくる私にも怯むことなく、母は次の指示を出した。
やっと探し出した木陰は、蝉の大合唱の特等席だった。
「ピクニックなんて、夏にするもんじゃないな」
「...ですね」
付き合い始めた季節には、桜が華やかに咲き誇っていた。もうひとつ季節を待てば紅葉を愛でられたはずだが、互いのスケジュールを合わせることに終始していた。
「青いわねー」なんて高笑いが聞こえたのは、弁当箱を開けた彼が苦笑したからだろうか。
「唐揚げは、母で。ブロッコリーとウインナーは何とかなったんですけど...卵が...」
「うん」
巻くの難しいもんなと言いながら、少し表情を固める。正直なことで、非常に良いと思います。
「あとそれから」
「うん?」
厳重に保冷と密閉がされたタッパーを、保冷バッグから取り出す。
「デザート...です」
フルーツ缶とヨーグルトを和えただけの、フルーツサラダ。たったこれだけでも、缶詰の水分量に苦戦した。
「へえ」
プラスチックスプーンで、中身を混ぜる。口に入れたのは、みかんだろうか。
「あ、うまっ」
表情が変わったのが、横から見てもわかった。かきこむスピードが、弁当より段違いに速い。
もっとも、出来合いのものを混ぜただけなので、失敗のしようがないのだ。
「ごちそうさまでした」
「おそまつ...さまでした」
でももし、隠し味の蜂蜜が利いていたのだとしたら。
だとすれば、体育祭の時にまた作ってみてもいいかもしれない。
もちろん、綺麗な色の卵焼きをつけて。
サラダ記念日
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