7月7日

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7月7日

信号待ちのついでに、背後のショーウィンドウを見上げた。 「あー、今年の夏祭り、滝澤(たきざわ)先輩が誘ってくれたら、この浴衣で行くのになあ」 驚いて右を見ると、したり顔の悪友がいた。 「図星?」 「まさか」 人の流れに従って道を渡る。振り返ることはしなかった。 「去年似たようなの買ったけど、着ないままだったなって」 「先輩が誘ってくれなかったから?」 「上手く着付けられなかったから。つーかあの人、」 彼女いるよ。付き合って1年くらいになる。 高校生の交際歴として、1年は絶対だ。 「え、じゃあ失恋じゃん」 「そう、なのかな」 可愛い後輩なのだと、紹介してもらった。よろしくねと微笑む姿に、同じ女性でも顔が熱くなるのがわかった。差し出された手はさらりとしていて、おまけに少しいい匂いがした。 勝ったとか負けたとか、そういう次元じゃなかった。 1年生の廊下で2人に話し掛けてもらえるのが誇らしいくらいで、晴れやかな気分だった。 「いや、そうだろ?好きだったじゃん」 「どうだろ...憧れてはいたんだろうけど...そんなに好きじゃなかったのかな」 「はあ?」 「だってショックとか泣くとか、そういうのはなかったし」 「じゃあその髪は」 ショートヘアが好きだと聞いたから、伸ばしていた髪を切った。シャンプーやドライヤーの時間が短くなって便利だけれど、ツヤや手触りに拘ると手間がかかった。 「確かに切ったけど、ここまで切ると短い方が便利だし...。彼女さんはキレイなロングヘアだったから、あんまり関係なかったんじゃない?」 「なんでっ!」 突然の大声に、通り中の視線が刺さる。無視して先を急ぐこともできず、立ち止まったままの友人と向き合う。 「なんでって...」 そんなの、私の方が訊きたい。 なんで悲しくないのか、辛くないのか。どうして先輩のことがすきだったのか。どこまで好きだったのか。 考えれば考えるほど、気が重くなるのだ。せっかく晴れやかに終われたのに、蒸し返して気を病むなんて、おかしいと思わないか。 「だって絶対に先輩のこと好きだったのに、あっさり諦めるなんてらしくないのに、泣きもしないから」 彼が言うのなら、確かにそうだのだろう。どこかで諦め切れていないのかもしれないし、ショックを誤魔化しているだけかもしれない。 「うん」 でもだからって、なんでお前が泣くのよ。しかも、こんな町中で。 ゆかたの日
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