7月1日

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7月1日

どんなに部活が好きでも、早く帰れる日ってラッキーだと思わないのかな。たとえ、テスト前の部活動休止期間中でも。 「あー、君たちの場合、それどころじゃないんだよね」 「ぐぬぬぬぬぬぬ」 わかりやすいほど煽られてくれた馬鹿どもだが、見捨てるわけにもいかないという実情が悲しい。 「せっかく3年生が冬まで残ってくれるって言ったのにい」 「その3年生もテスト前だからね。大人しく参考書出せって」 学生の本分は学業だ。天地がひっくり返ったって、それは変わらない。天地の逆転も起こりそうにない現状において、期末テストで赤点を取った生徒に夏期補習が課されるのは当然ではないか。 定期テストなんて、授業を真面目に聞いていれば赤点は取りえないのだ。1週間前になって赤点回避のために猛勉強を始めるやつらなど、せいぜい楽しい夏休みを送ればいい。 ――しかしそうとも言い切れないのは、彼らがバスケ部の主力メンバーであるからで。夏休みの合宿には、彼らにいてもらわないと困るからで。自分が、バスケ部のマネージャーであるからで。 「うおっ、お前さては天才...」 「その公式、春に習ったでしょ」 中間テスト前に覚えたんじゃないの...と遠い目をする他のメンバーに、心の中で手を合わせた。このケースの場合、教えられている側には勉強になっても、教えている側のメリットは極端に少ない。「教えることで実になる」というやつの、はるか低空を飛行している状況だ。 「で?アンタはどこがわかんないの」 「......」 「わからないところがわからないとか、言わないでよ!?」 無言。 もともと導火線は長い方ではない。仲が良いわけでもない男子生徒相手に、有意義な時間など過ごせるものか。 私だって1週間後にはテストを控えているんですう!進学クラスだから、いい点も欲しいんですう! 「おっ、落ち着いてっ」 「お前が落ち着け」 ほら、またお呼びだぞ。今度は何がわからないんだろうな。それ、まだ例題でしょ。 締め切っていた窓をひとつ開けると、風がそよそよと吹き込んできた。首筋に張り付いていた髪の毛が少しずつ剥がれていく。 校舎を後にする生徒の集団を見下ろしていると、叫び出したい衝動が消えていくのがわかった。思いついたメロディーを、口ずさんでみる。 「みんなでおゆうぎしているよ」 節に乗り切れていない、男の声。慌てて振り向くと、教師役に見捨てられたままの男子生徒が呟いた。 「...じゃなかったか」 唇の右端を、器用に持ち上げた。 こいつ! 顔に熱が集まるまま思い切り声を張り上げるのも、無理はない。八つ当たりくらい、許してくれ。 「うるさいバカ!」 童謡の日
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