第一話「入学してすぐの事」

1/2
前へ
/2ページ
次へ

第一話「入学してすぐの事」

魔法は誰でも扱える術だ。しかし自由にそれを行使することは出来ない。 当たり前のことだ。魔法を扱いたい、魔法を使った職業をする場合は 魔法学校に入学し、卒業する必要がある。 「新入生諸君、三風魔法専門学校に入学おめでとう」 壇上で新入生にその挨拶をした男子生徒を知らない人間はいなかった。 三風学校、現在の生徒会長である天女目(なばため) 飛鳥だ。才色兼備、完全無欠。男女から強い尊敬の念を抱かれている。 クラスは一学年五クラス。そのうち一組と二組は特待クラスとされる。 無論、現在の生徒会長は特待クラスのトップである。 魔法が現れた日本にはそれに秀でた名家がある。弥勒寺 多希の 家も元々は名家として数えられていたが長らく魔法を扱える 人間が生まれなかったゆえに外された。 早乙女、如月、花京院、冷泉(れいぜい)、桜小路、の五つは特に 秀でた五傑と呼ばれる名家中の名家である。 弥勒寺 多希のクラスは五組だった。仲が良い相手もいない為、 教室で一人で過ごしていた。感じるのは落ちた名家の出身者への 嘲笑である。 「オーイ、聞こえてる?」 我に返ると多希の前の席に座る男子生徒が後ろを向いていた。 つまり多希の方を向いていたのだ。それも体ごとだ。 「俺、真神 阿伏兎。よろしくな」 彼は握手を求めて来た。渋っていると彼は「ほら」と促してくる。 渋々多希は握手を交わした。 「家柄なんて意味ねえよな。今の生徒会長だって五傑じゃないし」 「そうだけど…気にしちゃうんじゃないかな。飛鳥さんは才能に 溢れてる人だから。凡人に対してはみんな見下したいんだよ」 「案外、大人だな…。言われっぱなしで良いのかよ」 「良くないけど、言いたいなら言わせておけばいいよ」 彼女の言葉に阿伏兎は苦笑した。年不相応な大人な言動だ。 弥勒寺家には長らく魔法を扱える人間が生まれなかった。そして ようやく彼女が生まれた。五組を担当する教師が入って来た。 遊佐 深月という男だ。絶対零度の異名を持つ最高位の氷属性の 専門家だ。加えて彼は国内の魔術師の序列第四位。力により序列は 決まるので国内で四番目に強いということになる。 「言っておくが、俺は家柄で優劣をつけるつもりは無い。一般の家でも 成績とやる気、総合して点数を付ける。家柄の上に胡坐を掻き、他者を 見下す屑は減点する」 「はぁ!?ちょっと待って下さらない?先生。家柄だって重要な項目ですわ!」 立ち上がったのは一ノ瀬 真理華だった。一ノ瀬家も五傑ほどでは無いが 名前の知れた名家だ。 「文句があるなら、誰よりも優しく誰よりも成績を残せばいい。簡単だろ」 「良いのかしら、先生。私は一ノ瀬家の一人よ」 「なるほど…家の名を使って脅すか。ならば俺も自分の称号を盾に使う。 国内序列四位、俺は俺のやり方を曲げるつもりは無い」 少しの間の沈黙。遊佐深月と一ノ瀬 真理華が互いに睨み合っていた。 高飛車で傲慢、裕福な家で育った人間。その悪い点を真理華は全面的に 持っていた。 「何が…何が序列四位よ…!」 彼女のような人間は怒りの沸点が低く、安いプライドを常に掲げている。 校内で魔術の使用は禁止されている。それを無視してでも相手に一矢報い ようとしたのだろう。彼女同様、格式のある家に生まれた…代々魔術師を 生んでいる家に生まれた生徒たちはそれを面白がっている。 真理華が炎を放とうとする。立ち上がったのは弥勒寺 多希、そして 彼女を制止したのは真神 阿伏兎。 炎は既に遊佐の目の前に迫っている。 「聞いてないか?俺にはこの程度の炎は―」 本来、有り得るはずもないことが起こった。真理華の紅蓮の炎は 凍っていた。氷を溶かすことも無く…。 「―効かない」 「…はぁぁぁぁっ!?」 「遊佐先生は絶対零度の異名を持ってるんでしたっけ。国内で 彼の氷を溶かせる炎は存在しないとかするとか。意外と一般常識に 疎いんだな、アンタ」 阿伏兎は真理華に向けて言った。 「四位までの奴らは国内の最高戦力。序列はコロコロ変わるけど、四位までは そこに付いた時点から変わることは無い。どんな家の出身者であろうと 彼らにとやかく言う事は出来ない。彼らを裁くのは国だからな。今回の ことだって国からすれば別に先生を罰するほどの事じゃないと思うぜ?」 「知ったように言わないでくださるかしら?」 「おっと。こりゃあ失敬。お嬢様なら、このぐらいは常識だよな。なら こんな話はどうだ?」 悪戯っぽく笑う彼に対して心底腹が立っている真理華。阿伏兎は話を 続けた。それも横目に多希を見ながら。 「お前、本当に落ちた家系より優れた人間かよ」 「…ここで勝手な決闘は許すことが出来ない。こうするか。一ノ瀬 真理華、 お前は前々から学級委員になりたいと言っていたな。一ノ瀬派と弥勒寺派に 分かれてチーム戦を行う。勝利条件は互いのチームの大将、つまり 一ノ瀬真理華か弥勒寺多希を戦闘不能に追い込むか、投降させることだ」 チーム分けは迅速に行われた。対抗戦は一週間後。それまでは決して 相手に危害を加えてはならないというルールが決められた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加