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天女目 飛鳥。今や学校内で彼を知らない生徒はいない。彼は名家の
人間からも称賛される強さを持っているのだ。だが元々強かった
訳ではない。壇上で新入生へ祝辞を述べているときに目に入った
生徒は天女目家が代々仕えて来た家系の人間だった。
「相も変わらず、容赦がないですね。会長」
声を掛けて来たのは副会長、苗代 茉由。2年3組。今までの生徒会は
ほとんどが特待生で固められていた。飛鳥が会長になってからは彼の意向で
どのクラスからもなりたい者を集って雇うという形が採られるようになった。
実力が一定よりも低い場合、もしくは自ら望めば生徒会長直々に鍛えられる
という。数が多い場合には彼の扱きはより厳しくなり、数を減らす。
「沢山いても仕方がない。生徒会にやる気の無い、怠けるような人間は
足手まといだ」
「それを言うと、私も足手まといなのですが…」
「俺はしっかりと提言した。前線で動くか、それとも後方でバックアップを
担当するか。後者を選択すれば、そいつらはお前に寄越した。裏方も
いなければ、俺の仕事はこうも上手く進まないからな」
裏方と前に出る人間との連携が取れなければ必ず何処かで解れてしまう。
裏方も立派な生徒会のヒーローだ。多くの人間が彼らを負け犬などという。
茉由は戦闘は不得手、代わりに味方のサポートに徹することが多い。
「新入生の履歴書に目を通しました。会長が気に掛けているのは
この子でしょう?弥勒寺 多希。一年五組の子。会長の家系は代々
弥勒寺家に仕えていたのですよね」
弥勒寺家がかつて名家だった頃。天女目家と他の家は弥勒寺家に仕えていた。
飛鳥は父より従者としていつか弥勒寺家の女性に仕えるべく鍛えられていた。
弥勒寺家の魔術師は全員が女だ。男よりも脆く、壊れやすい肉体と精神を
持つ。ならば従者は強くなければならないと。厳しい修行を積み、飛鳥は
今の強さを手に入れた。
「天女目、女郎花、早乙女、十六女。
この四つの家が弥勒寺家の従属だ。それに不満を持ったことも無い。
今では薄れ始めているが、かつては魔術師を生む可能性を高めるために
四家から弥勒寺家の女当主に婿入りさせる慣習もあった」
「では、会長も何時かは多希さんのお婿さんに?」
「どうだろうな。無理に婚約するつもりは無い。…茉由、お前は
何か用があって来たんじゃないのか」
飛鳥は茉由に話を振った。
「?いいえ、用事があるわけでは無いですよ。会長、頑張るのは
良いですが休憩するのも鍛錬ですよ」
飛鳥は思わず身を震わせた。熱を放出している体に、首に押し付けられたのは
冷えた水だった。茉由は飛鳥の隣に座り横顔を覗き込んだ。
「…確かに、最近はしっかりとした休息は取れていないな」
「ですから、今日ぐらいはしっかり寝ましょう!良いですか?最低でも
夜11時には眠るように!」
「俺をガキ扱いか…。お前ぐらいだよ、そんなことをするのは」
飛鳥が初めて表情を緩めた。その顔が見れて嬉しかったのか、去り際に
茉由は笑顔を浮かべていた。
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