三十路オメガに需要はありますか?

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 資材倉庫の棚に届いた文房具の在庫を片付けていると、入口の辺りから誰かの話し声が聞こえてきた。  ハラスメント防止対策で、こういった所で作業する時は、電気をつけ、扉を開けて『作業中』という立て看板を入口に設置してある。  だから、中で誰かが作業をしていることは分かっているはずだ。 「商談まとまらなかったんだとよ」 「え?なに?この間の桐谷商事の?」 「そうだよ。上層部が軽く顔合わせしたらしいんだけど、その席で…」 「交渉決裂か」 「社長の息子が同席したからだ」 「ああ、噂の年増のオメガ?」 「いき遅れが、先方のアルファが気に入らなかったンじゃねーの、ったく」 「なにそれ?」 「えぇ、知らねーの?営業部では結構な噂なんだけどな」 「なんだよ、教えろよ」 「社長の息子が同席した商談は、潰れるって」 「え、マジか」 「男オメガだろ?婿養子とるって噂じゃん。だから、商談の席を見合い代わりにしてるって」 「もしかして、オメガ接待?」 「逆逆、先方のアルファが30過ぎた男オメガを抱くって噂だぜ」 「起たなかったら……って、か」 「って、噂だ」 「てか、社長の息子って役員だっけ?」 「いやぁ、社長の秘書をしてるらしいぜ」 「見たことあるのか?」 「ある訳ねーよ」 「秘書課は俺らじゃ近付けねーもんなぁ」  そんな事を話しながら、彼らは入口付近のコピー用紙を何冊か持ち出したようだった。 「営業部三課でーす、持ち出し表には書いてありマース」  そうして、資材倉庫の奥で作業をする、見えない人物に声をかけて去っていった。自分たちの会話が丸聞こえだったことなんて何も気にしていないのだろう。資材倉庫の管理は庶務課がやっている。庶務課の人間に聞かれても大したことがないと言うことなのだろう。

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