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EX:107冊目の英雄譚
――少女は、英雄譚が好きでした。
そして、英雄譚の“邪悪”に憧れました。
人々に恐れられ、英雄が敵視し、
物語が終わるまでずっと覚えてもらえる。
そして自らを倒した者を英雄にすることが
できる、そんな邪悪に憧れました。
死後の世界から、ミオは
ミゲルが死んだ様を眺めていました。
そして手元にある本に、
“英雄ミゲルは邪悪な魔術師を腕に抱え、
自らの心臓に死の魔術を放ち、
その命を終わらせました”
と書き、“fin”と続けると、
本を閉じ、裏表紙に“No.107”と綴りました。
「もう107冊目になったんだ。
それでも、君の英雄譚は
まったく飽きなくて面白いね」
「ねぇ、英雄ミゲル」
そう一人呟くと、ミオは輪廻転生魔法を、
1000年前に失われた古代魔法を
慣れた手付きで発動させました。
「君の108冊目の英雄譚も、
きっと面白いんだろうね」
108回も繰り返し使われ続けた魔法は、
まるで主を歓迎するかのように
淡い光を発しながら、ミオとミゲルの魂を
優しく包み込みました。
魔法が発動し、意識がなくなる直前、
ミオはぼそりと呟きました。
「でも、なんで毎回死んじゃうの?
邪悪を倒して、英雄になれてるのに。
……ずっとずっと英雄として幸せに生きて、
邪悪を憶えていてよ」
邪悪に憧れ、英雄に恋した
記憶に固執する心が壊れた魔術師には、
ただの少女に恋し、
ずっと恋心を忘れられないでいた、
ただの少年の心は
何千年経っても、分からず仕舞いなのでした。
ーfinー
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