一人の少年

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一人の少年

ある貧乏な村に、一人の少年がいました。 少年が住む村は、王都から遠く離れた、 魔物がこないほどのへんぴな場所にある 村でした。 当然そんなところにくる物好きな行商人は ほとんどいないため、 武器どころか本でさえも村では貴重品で 少年の家にも、父が持っていた 擦り切れた一冊の英雄譚しか 本はありませんでした。 その英雄譚は表紙がとくに擦り切れていて 題名は読めませんでしたが、 表紙に描かれた人物は茶色の髪に 青い目をしていて、 少年の父にどこか似ていました。 少年は父に頼んで文字を教わり、 その英雄譚を読みました。 ある村のある少年が剣を武器に旅に出て 魔物に困っている人々を救い、 謎の魔法使いに助けられながら 剣士や僧侶といった仲間たちとともに 魔物を操る“邪悪”と呼ばれる悪い魔術師を 倒し、 英雄となり、美しく心優しい姫と結ばれる。 そんなありきたりな英雄譚でしたが、 少年にとって初めて読む本だったので、 物語の全てが新鮮にうつりました。 少年は、その英雄譚の主人公である 英雄に憧れました。 力と優しさをもって人々を救い、悪を倒し、 人々から感謝され、美しい姫と結ばれる。 そんな英雄に憧れました。 「いつかこの村を出て、英雄のように  魔物に困っている人々を救いたい」 と少年が言うと、父親は喜んで 自分の持っていた一本の剣を少年に 譲ってくれました。 少年はその剣で毎日修行をして、 本の中の英雄に近づこうとしました。 父親が喜びながらも、 少し悲しそうな顔をしたのを、 少年は気付きませんでした。
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