一人の少年

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ある日、村にひとつの家族が引っ越してきました。 住んでいた村が魔物の大群に襲われ、 村を捨てて命からがら逃げ出してきたのだとその家族の父親は言いました。 少年は英雄ならこうするだろうと、 その家族の手伝いをするようになりました。 その家族には、一人娘がいました。 きれいな金色の瞳に、珍しい黒髪をした、 物語に出てくるお姫様のように 美しくて心優しい少女でした。 少女は魔物に襲われたばかりだというのに、 村の子供たちを気遣ったり、 大人たちの農作業を手伝いました。 また、少女は物語が大好きで、 少年の英雄譚と同じものも持っていました。 少年が物語の英雄に憧れているというと、 「私も、この英雄譚のとある人物に憧れているの。だから、おそろいだね」 と笑いました。 その笑顔は、少年が思い浮かべる 物語の中のお姫様と、 全く同じ顔をしていました。 少女は英雄譚の話で少年と意気投合し、 少年の英雄になりたいという夢も心から 応援してくれ、剣の修行にも 付き合ってくれました。 しかし、いくら仲良くなっても、 少女が英雄譚の誰に憧れているのかは 秘密といって教えてくれませんでした。 少年は、少女が魔法の特訓をしているのを 見ていたため、英雄を手助けする魔法使い に憧れているのかなと予想しましたが、少女は否定も肯定もしませんでした。 少女が村に馴染んでいくにつれ、 少年は少女の優しさと美しさに 恋心が芽生えていきました。 そしてとうとう少女に、 「大きくなったら僕と結婚してほしい」 と言いましたが 照れで顔を真っ赤に染めた少年に対して、 少女は困った顔で笑うだけでした。
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