花木山

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 また、芽が生えた。  沢山の花が咲くこの山は『花木山(はなきやま)』と呼ばれ、多くの人間が観光に来るようになり、野獣達もそこになる果実を食べに来ていた。  それを、人間界が映る池から眺めていた観音様は、何やら悲しそうな顔をした。その隣で死神は声をあげて笑っていた。    近年種葬(たねそう)と呼ばれる方法が使われるようになった。これは環境面の問題で火葬ができなくなった為、編み出された埋葬の方法である。遺族や参列者に火葬したように天へ昇る白煙を映像で見せながら、種を植えた遺体を近くの空き地に捨てた。  地中の人間の遺体を喰った野獣は、その身体にも種が入る。この種は特殊で、胃腸で消化されず体内に残る。そして獣の死後、芽が出るのだ。  種葬は公になっていない為、花木が死んだ人間や野獣の遺体から芽生えたものだと知っている者は、ほとんど居ない。  山頂の平地に、また花が芽生えた。
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