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思うに、薫布在店の在庫確認は、楽だ。
見えづらい場所が少ないから身体をねじったり這いつくばる必要はなく、布にも五十枚ずつ色紐が挟まれて数えやすくなっている。
「大袋の中身まで全ての棚卸は年に二度行います。その折には本当に、皆が冷や汗もので」
「冷や汗とは穏やかでないですね」
「数が合わないと困ります。間違いがあったのか、誰かが盗ったのか。そうして暁ジョウ様と問答を行い、大抵は間違いでしたと終わるのですが、そうでない場合は先ほどの禁忌の処置となります。自らは潔白と思えども、数が合わないだけで本当に怖いです」
かなり厳しい統制をしているようだ。暁士のいくつかの面を見て来たが、容赦なき面のあることも知っている。顔色一つ変えずに処置するさまも、想像に難くもない。
……時折現れては、ぴしゃりと締める。かような店長に違いない。
昼下も蔵内に詰めていると、緑如が呼びに来た。暁ジョウ様がお越しです、という。未陽は緊張の面持ちになるかと思いきや、楽し気な笑みを浮かべた。
「そろそろだと思いました。茶菓がお好きなお方ですから」
くすくすと、何かを思い出すごとくに笑う。
なるほど、もうじき昼下の茶菓時間になるらしい。それにしても、この店における暁士の造形はどうもよくわからぬ。未陽がそそくさと店に向かうので、首を傾げつつ後を追う。
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