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「それでねっ。続きまして、みんなに大事なお知らせです。このお店には三つの禁忌があるの、ご存じね。そこにもうひとつ追加しま~す」
皆が目を見開いたままに、緊張した。気が固まる。
禁忌と言えば、つまり破れば指以上のものが切られてしまうという、あれだ。身の安全にかかわる重要事項だ。
「よおく、覚えてね。廼宇ちゃんに、手を出してはいけません。わかった? 口を吸えば指を斬る。お股に触れれば腕を斬る。交わったならば首を斬る。わかった? はい、言ってみて。口を吸えば?」
「……指を斬る」
皆がそろって言うが、さすがに声が小さい。
「もっと大きな声で。お股に触れればぁ~?」
……いや、そこで声を張り上げる必要もなかろうに。
「腕を斬る」
「そう。交わったなら?」
「首を斬る」
「はい、よろしい。……あ、だけどね、それだけのことよ。廼宇ちゃんはわたしのもの、ってだけだから。お仕事はちゃんとするからね。ちゃーんと教えて、出来ない時は、叱ってあげてね」
妖怪は廼宇の肩から手を外し、軽くパン、と両手を打った。
「はい、以上です! わかったら、みんなでお返事」
「はい!」
……そして解散したわけだが、明らかに以前と空気が違う。
「この後もお仕事、頑張ってねっ」などと言いつつ廼宇の耳に唇をつけてから妖怪が離れたあと、皆との距離がたいそう広がっていることに気付いた。
「み、未陽さん、蔵に参りましょうか」
未陽に声をかけると、はい、と言いつつも、半丈ほどの距離を保って歩みを進める。
……あああ、なんと居づらい場所になってしまったことか。つい先ほどまで、居心地良く、仲間も素晴らしく、店も蔵もよい誂えで幸せに満ちた初日を過ごしていたのに。
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