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はあ~~。
廼宇は大きなため息をつき、しゃがみこんだ。
なんなんだよ、もう。
……まさかこれが、暁士様の言うところの『厳しい道』であろうか。
「暁ジョウ様の、特別なお方だったんですね」
台帳を口元に当て、興に満ちた目で未陽が言う。
「暁ジョウ様のジョウって、お嬢様の嬢という字だったのですね。……いや、あれは妖怪だろ、どう見ても。……なんなんだよ、もう!」
未陽はとても驚いた様子を見せ、やがて堪えきれぬかに笑い始めた。
「そんなにはっきりとおっしゃる方は初めてです。皆、最初はあの勢いに気おされてしまうし、慣れると面白いだけなので」
「私とどうこう、なんて話までするし。公に言うことでもないでしょう。皆さんもお嫌だろうし」
「いえいえそんな。嫌ではないですよ。あ、そう思われたなら、本当にすみません。みな全く、嫌ではないです。男同士の二人はすでにおりますから」
「え?」
「緑如さんと福来さん。お付き合いしている状態で、お二人でここに雇われました。ですから皆、平気です。というより、平気に思う人しか残されておりません。陰で罵倒するような方は辞めさせられました」
……なんと周到な。
しかし緑如も店の始めから働いているはずだ。俺が六角に囚われるより前に。するとやはり、男を相手にする、という暁士様の企てはかなり昔からのものに違いない。たまたま俺が折に合ったのみで。
「でも皆さん、なんと申しますか、先ほどから変わられましたから。未陽さんも私から遠ざかっておいでですし」
「すみません。確かに、驚いたのです。あの、暁嬢様のお相手だなんて。確かに前から欲しいとは仰ってましたけれど、本当にこの方がと思うと、……つい。それに禁忌にもなりましたから、万が一にもぶつかって口が触れれば、指を斬られてしまうかも」
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