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北別と呼ばれるこの屋敷には、廼宇にも自室が用意されていた。
もとは客間だというその部屋は天井高く、白壁に濃茶の塗の柱が品よく似合う。趙家に似て寝台までも靴で進むが、寝台と窓の間の半丈は一段高く淡い紫の絨毯が敷かれて、素足でもくつろげるようになっていた。
……どう見ても、分不相応だな。
しかしその思い以上に目を引くものがある。
広めの部屋だが、暁士の思惑を感じる大きすぎる寝台に加えて、書棚が場所をとっていた。そのため部屋の余地は少ない。壁の半面に据え付けの書棚があるのみならず、天井に届くほどの個棚も置かれている。今ある書物で埋まるは半分ほど、それでも相当な量だ。余程学を好む客が多かったのか。
この客室には脇に湯室も厠もあるし、使用人たちから離れているから便がいい、と真新しい寝台にゴロリと身を横たえながら暁士が言った。
「離れていたらご面倒ではないですか」
「……改めて雨華に問うても良いぞ。夜な夜な怪しげな喘ぎを聞かされるのと、多少遠くの部屋の世話をするのとどちらを選ぶか」
「…………」
屋敷には暁士と廼宇の各私室ともう一つの客間、そして応接や食事室のほかに使用人たちの区画がある。だが必要最低限の仕様で、花房屋敷や趙家よりはかなり狭い。その敷地にあって他の区画から遠いこの客室は確かに有用で、暁士自らも入り浸るつもりらしい。
使用人と言えば、雨華と小鈴は余分な泊を楽しむ男たちに先んじて迎えてくれた。明明は花房常駐なので、新しく符里という女中がいる。いやむしろ符里こそが北別の常駐で、雨華も元怜も馴染はあり、小鈴と廼宇が完全なる新参ということだ。
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