北別屋敷

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 なんと小白(こはく)とも再会を果たした。もはや仔犬ではなく青年犬だ。久しぶりだが、廼宇の去った六角の前庭を与えられていたためか、臭いを覚えているらしくよく懐いた。この度も中庭の一等地に小さき戸建てをあてがわれて居心地よく過ごしている。  他には厨房に男女の(よう)夫妻、馬番を兼ねる張り番が二人、梓辰(ししん)納宜(なんぎ)。  そして元怜が下男として住み込みになっている。  元怜様には下男という言葉が似合わぬ気が致します、と首を傾げた廼宇に、まあ本質は護衛だが張り番たちの気を削がぬために下男としている。下男かつ護衛かつ遊び相手だ、と暁士が説いた。かつ叱られ仲間にもなる何でも屋だが、元怜自身は暁士の傍にいられればそれで満足のようだ。    ふと、思う。元怜は暁士様に抱かれたくはならぬのか。  不思議なものだ。もし暁士様との間柄が寝所を介さぬなら。あのような出会いでなく、ただ道端で会った知人ならば、思いもよらぬ卑しき疑念。  俺から見れば元怜は小柄で可愛らしく、抱いたならば俺などよりも心地よいだろうと思う。  ……それでいて、いつも暁士様に供をすることが羨ましい。  護衛などと言われて役に立つが羨ましい。  暁士様の職を知るばかりでなく、探索だの離れての命すら帯びるも羨ましい。  俺は何一つ役立たず、暁士様の職すら知らず、ただ自在に弄られ喘がされて喜ぶばかりだ。  ……明日からの勤め、気を張って望もう。  共に歩むと決めた身だ。布地屋だろうと盗賊であろうと、置かれた立場で最善を尽くすしかない。そしていつか、いつの日か、情人たるのみならず、暁士様ご自身のために役立つ者となりたい。
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