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慌てて荷を捌き、寝る仕度を整えて、寝台以外の行燈を消し暁士に近づく。
薄明りのもとで見れば、暁士はいつの間にやら肌も露わに、寝着はただ羽織る程度になっていた。
「何を真面目に寝着の帯まで締めているのだ。……お前しか要らぬ」
「……はい」
寝台脇でするすると寝着を解き、暁士の腕にくるまれるべく布団に入り込む。口を柔らかに吸われそして吸い返しながら、その背に腕を回した。
「おぉっ。……指先はさすがに冷たいな」
優しくもおどけた調子の暁士の声が耳元を甘くする。自然な思いのままに身体ごとを暁士に擦り付けた。
「……熱うございますね。暁士様は」
「行火だからな」
「身体じゅうが火照るようです」
本当に熱い。廼宇を抱く腕が胸が、そして腹に当たる逞しき塊が、全てが熱い。廼宇の身体にも容易く熱が移り、薄明りのなかで己の耳の先までが赤らむを感じる。
「待っていたからだ」
「私の片付けの手が遅く。お待たせしました」
「違う。……俺は待っていたのだ。……ずっと、長いこと」
「……長いこと……?」
「六角で別れた後のこの夏から。この屋敷を、この部屋をお前のために整えながら、ずっと。お前とここで抱き合える日を思い描きつつ、……ずっと、待っていた」
終わりには呟くようになりながら、廼宇の髪に首元に耳にと唇を置く。あちこちに思うさま吸いついたその唇は、より熱を帯びて廼宇の口へと戻り来た。
「この屋敷のこの寝台で、こうしてお前を抱く時を、ずっと、だ。……身体とて熱くなろうというものだ」
胸が沸き立つ。
喜びが弾ける。
いかなる言を返すべきか。御礼か詫びか喜びの独白なのか、どれでもよいがどれでも足りぬ。
廼宇はむしろ言を封じ、その腕にその足に心を宿して、暁士に絡みついた。
暁士の声が吐息ごと、廼宇の耳を包み込む。
「廼宇。俺はお前を放さぬぞ。心せよ」
「はい」
「この屋敷の、この寝台で。……今宵こそは、放さぬぞ。心せよ」
「…………はい」
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