店長

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 暁士と廼宇の間柄をどこまで知るかは気にはなっていたから、話さずに済むならむしろ有難い。しかし、店長の我儘、と聞けばなにやら申し訳ない気になり瞳を下げた。 「廼宇さんは全く気にしなくていいんですよ。何しろあの店長ですから」  爽やかなままで軽く言い、緑如は仕事を説き始めた。  仕入れを存知なのだからまずは在庫の確認から始めましょう、とのことで、未陽(みよう)という、多分同年ほどの女性につくことになった。 「この店では役や上下に男女の別はないのです。未陽も三年前の開店以来の者で大変有能。仕入れ先との付き合いも未陽からお教えします」  未陽は髪を団子にまとめ、小柄でくるくるとよく動き、はきはきと喋る女性だった。質問を言い切らぬうちにも答えが返ってくる。 「緑如様は皆にあのように丁寧に…」 「はい、皆にあのようなお言葉でお話になります。けれど皆、緑如さんのお言葉に逆らうことはありません。とても尊敬しております。叱る時もあの調子ですが、本気でお叱りになると多分怖い、その想像だけで皆言うことを聞くのです」 「暁ジョウ様はあまりこちらにはおいでに……」  実は今朝ほど暁士に、俺のことは店ではギョウジョウと呼ぶように、と言われたのだ。偽名を使うなどやはり怪しく、布屋以外の本職の在るを感じる。 「そうですね、あまりおいでになりません。でも来られた時には大事がばんばんと決まりますし、やはり店長様です。あのようなお方でも」  ……どうも先ほどから皆が、あのようなお方、などと暁士を呼ばわるようだ。
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