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麻里佳が知らない男性と観光リゾートで手を繋いでいる写真、麻里佳がその男性と腕を組んで街中を散歩デートしている写真、高級レストランでその男性と優雅に食事をとっている写真、麻里佳がその男性と頬を赤らめながらホテルへと入っていく写真……見るたびに絶望していた写真の束が無骨な封筒から剥き出しになっている。
「あなたのスーツの懐に入っていましたよ。姉さんは浮気をしていたんですね」
「…………」
「あなたは浮気する姉さんに腹を立てて口論になった。本当は殺す気なんてなかったのに、致命的な一言を言われて、堪忍袋の尾が切れた――そして、気がついたときには姉さんを絞め殺していたってところですか」
澤田は悠李が訪れる前に麻里佳が叫ぶように放った言葉を思い出す。
「孝太郎、あなたみたいな勝手な男とは結婚できるはずがないじゃない。『これ』はあなたの両親や知人にも見せますから」
その瞬間、澤田の両手が彼女の首元を掴んだのだ。
「浮気をされるのは辛いですよね。しかも、結婚を目前にしていた相手に裏切られるのは心を抉ります」
しかしですね、と悠李は冷酷な口調で言う。
「ぼくはあなたに同情はしません。だって、あなたもそうなんですから」
悠李は麻里佳のスマホの画面を澤田へと向けた。
厳重に厳重をかけて更に厳重にかけられているはずのパスワードがまるで悠李の私物のようにいとも容易く解錠されており、写真アルバムのアプリが展開されている。
そこに写っているのは、澤田孝太郎だった。
しかし麻里佳が別の男性といたように、アルバムの中の彼もまた彼だけはなかった。
彼と腕を組んでいる悠李には見知らぬ女性もまた写真におさめられていたのだ。
悠李は無慈悲に画面をスライドさせる。そのたびに澤田と麻里佳ではない女性とが楽しく寄り添っている様々なシーンに切り替わる。しかもその女性とは、シーンごとにまったく違う女性なのだ。
「お義兄さん、いや澤田孝太郎。お前も浮気をしていたんだな。しかも、複数の女性と」
悠李は言う。
「お前の浮気写真を撮った日時と姉さんの浮気写真に刻まれた日時を較べると、お前が先に浮気をしているようだな」
口論で麻里佳が言っていた『これ』とは彼女のスマホの中にある写真群のことだったのだ。
澤田はただ悠李を睨みつけている。
睨みつけることしかできない。
しかし猿ぐつわが外されていて、発言が自由であったとしても、彼は噤むことしかできないだろう。
「お前が浮気しているとわかった姉さんは意趣返しで姉さんも浮気をしたんだ。お前は裏切られたと思って探偵に調査を依頼した。それで喧嘩になって姉さんを絞殺した――自らの罪を棚上げにして」
反論は――ない。
まったくもって、そのとおりだ。
すべてが――すべてがばれた。
取りつく島はない。
澤田はぐったりと俯いた。
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