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 副リーダーは先輩におだてられ、半ば押しつけられた形で手にした立場だったが、ボランティアそれ自体には真剣に向き合っていた。  人に奉仕するという行為が、澤田の心を満たしたのだ。あれだけ人助けや協力にのめり込めるとはと、自分でも驚いたくらいだ。汗水垂らして奉仕活動をするのは、澤田にとって至福だった。  そして、そんな彼に麻里佳は次第に惹かれていったのだ。  しかし、かつて清廉潔白な男だった澤田がいまや見る影もない。  彼は私怨で恋人を殺し、あまつさえこんなことを考えていたのだ。  この死体をどう処分しようか。  と。  または。  西園麻里佳の死体を誰にもばれないように消すにはどうすればいいのか。  と。  写真を棚に戻し、横たわる麻里佳に振り返る。  リビングのおよそ中央あたりに息絶えている彼女。  動かなくなったということは、こちらの言うことにも文句を言わない最高の女性になった、なんてサスペンス愛好家も背筋を凍らせる思想には至っていない。  彼女を殺した犯人としてこの死体をどこに隠せばいいのだろうか、彼女が消えたことをいかにして誤魔化せばいいだろうか――澤田が抱いているのは、そんな邪心だった。  その邪心がひとつの妙案を浮かばせた。  ここからクルマで一時間ほど走らせると滅多に人が立ち入らない山間がある。そこに麻里佳を埋めて葬ろう。  これは先程の回顧の最中に浮かんできた案だった。そこから更に三十分ほど走らせた先に街があり、その街こそが大学時代を謳歌した街だった。そのような因果から、あのような残酷なインスピレーションを得られたのだ。  奇しくも愛を育んだ地域の間に愛し合ったパートナーを埋葬する手筈になった。このへんに投げ棄てるわけにもいかないという心理がパートナーだった麻里佳との思い出を追憶へと掃き捨てさせる。  聞き分けのない彼女との縁やゆかりなど、俺のの人生に較べればどうということはない――俺は捕まるべき人間ではないのだ。  プランは色々と詰められてはいないが、この死体をリビングから隠さないことには始まらない。死後硬直が発生する前にキャリーケースに彼女を敷き詰め、駐車場に駐めてあるクルマに突っ込もう。酒が抜けてからすぐに例の山奥に行って、それで――と、計画の手順を勘定しながら澤田は電灯を点けた。  そのときだった。
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