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いつか咲く花
優が泣き止むまでずっと側にいてくれた男性は、優が落ち着くのを見計らって、ポケットからポストカードを取り出してみせる。
そのポストカードに印刷されていたのは、葉が銀色で剣のような……少なくとも優は見たことがない、不思議な植物の写真だった。
「これ、は……?」
不思議に思い、男性に尋ねてみる優。
男性は変わらず穏やかに微笑みながら、
「これは、銀剣草という植物なんだよ?」
と、告げた。
「シルバーソード??」
聞いたことのない植物の名前に、優は首を傾げる。
すると、男性はポストカードを優に持たせ、シルバーソードの説明をしてくれた。
「これはね?ハワイを含めて、世界で3箇所にしか咲いていない、とても珍しい花なんだ。何より珍しいのは、その生態でね。普通の花と違って、何年……いや、何十年も待たないと、この花は花を咲かせないんだ」
「そうなの……?」
とても不思議に思い、ポストカードの植物をまじまじと見つめる優。
そんな優に、男性は頷いてみせた。
「ああ、そうなんだよ。この花はね、早ければ10数年……けれど、平均的には芽生えから20年~30年後に開花することが多いんだ。ただ、やはり生きているものだから個体差があってね?中には50年後に開花したものもある。面白いだろう?人間の人生も、きっと、この花と同じじゃないかな?」
「人間の人生も、同じ……」
黙って、シルバーソードの写真を見つめる優。
そんな優に、男性は静かに頷いた。
「今はまだ、花が開かなくても……いつか、きっと花開く時は来る。絶対に。だから……今、自分の人生を……夢や希望を諦めてしまうなんて、勿体無いと思わないかい?」
戸惑いながらも、男性の言葉に優は頷く。
そして、尋ねてみた。
「僕も……いつか、花開けるでしょうか?」
「ああ。きっと。必ずね」
男性は、優の言葉に力強く頷くと、優しく優の頭をぽんぽんと撫でてくれる。
その手の温もりがとても心地好くて――男性に出逢ってから、優は初めて微笑んだ。
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