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未来に花開くために
その後、日本に帰国した優。
冬休み明けに学校が再開されると、待ってましたというように、下校時に副担任が優に駆け寄ってきた。
「奨学生の件、考えてくれた?今日、早速申込書を送ろうと思っているのよ。良いわよね?」
副担任の話を聞きながら、優は胸ポケットの上から、そっと――男性に貰ったシルバーソードのあのポストカードに触れる。
「先生?すみません。僕、奨学生の話はお断りします」
「はぁ?!」
優の言葉に、副担任がすっとんきょうな声を上げた。
しかし、構わず優は話を続けていく。
「僕……この高校を卒業したら、アメリカに留学したいんです。自分の英語力を、もっと磨く為に」
「留学なんて、大変なのよ?!」
「ええ。分かってます。まだ、何をしたいかは決まっていないけれど……。それでも、僕は……この英語力を、武器にしていきたいんです。だから、奨学生の話は受けられません」
まだ何かをヒステリックに叫ぶ副担任に頭を下げ、校舎から外に出る優。
彼の頭上には、あの日イギリスで見上げたのと同じ澄みきった青空が広がっていた。
(……これで、良かったんですよね?)
優は目を閉じ、記憶の中に彼に話しかけてみる。
思い出の中の彼は、いつものように微笑み、頷いてくれた気がした。
「……僕は、僕の道を生きていこう」
――例え今はまだはっきりと夢や希望がわからなくとも。
良いじゃないか。
僕は僕のタイミングで花開くのだから。
だから、開花の時を待って――今は僕が出来ることを1つずつ積み重ねていこう。
「アメリカに行ったら……夏休みにハワイに行こうかな」
そうして、シルバーソードの花を生で見てみよう。
「そうだ。……あの人に、手紙も出さないと」
その時には、自分で撮ったシルバーソードの花の写真も添えてみようか。
「さて、先ずは準備をしなくちゃな……!」
優は、足取りも軽く、丁度やって来たスクールバスに乗り込んだ。
車窓では、バス停の周囲に植えられた早咲きの秋桜が風に花弁を揺らしていた。
まるで、今から自分の人生を生き直す優を、祝福するかのように。
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