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イタリア系マフィアの中で最も古い歴史を誇る『ヴァレンティーノ・ファミリー』。
加入して4年目の構成員『ネロ』は、絶好のチャンスが訪れたことを確信する。
なんと、ボス直々に任務を言い渡されたのだ。
幹部ならまだしも、何百人といる下っ端の一人に過ぎない彼に、組織のトップが頼み事など異例中の異例。
このチャンスを逃す手はない。どんな無理難題であろうと必ず成し遂げてやる。
ネロの中にある野心の火はメラメラと燃え上がった。
「今後、アリーチェお嬢様の身の回りのお世話をさせていただくことになりました。ネロと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
完璧な作り笑いを浮かべ、自分の膝丈しかない小さな主人に跪いた。
まるでお伽話の姫と騎士のような、心躍るシチュエーションだが、とうの騎士は心中で愚痴を吐く。
(クソッタレが! どうしてガキの子守りなんかしなきゃなんねーんだ)
ネロは子供が大嫌いだ。泣けばどうにかなると思っている、その甘えが嫌いだ。
子供の笑顔も虫唾が走る。自分がこの世界で一番愛されていると信じてやまない緩んだ顔が、たまらなく嫌いだ。
休日に両親と手を繋ぐ幸せそうな子供が一番大嫌いだ。
親兄弟のいない自分が世話係に任命されたのは疑問だが、これがチャンスだということに変わりはない。
アリーチェ・ヴァレンティーノは、ボスの大事な一人娘。
愛娘を託すということは、信頼の証だ。
これは幹部昇進も夢じゃない。
最高の未来図を描き、悦に入るネロだったが、グッと前髪を掴まれ現実に引き戻される。
アリーチェの顔が視界いっぱいに入る。
将来美人になると約束された、端正な顔立ち。
波打つ長いブロンドヘアはモデル業だった母親の面影を感じさせる。
アーモンド形にはめ込まれた、サフィアめいた青色の瞳に魅入られ、ネロは息を呑む。
「真っ黒な髪。まるで野犬ね」
カナリアのような声で紡がれた言葉は、紛れもなく悪意だった。
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