プロローグ

3/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 ピクリ、とネロの眉間が動く。  が、ポーカーフェイスは崩さない。  この程度の嫌味、今までの蔑称に比べれば可愛いものだ。 「日系人なので。これでもお嬢様の美しさを引き立たせるには最適かと」 「ふーん。ねぇ、どうしてパパの組織に入れたの? 移民なのに」 「運良く組織の構成員にスカウトされただけです」 「ほんと? カラダを売ったんじゃなくて?」  一瞬、ネロは耳を疑った。13歳の子供の口から出た言葉とは思えなかった。 「だってあなた、得意そうだもん」 「……どういう意味でしょうか」 「とぼけたってムダよ。忠犬のふりして尻尾を振っているけど、いつ主人に噛みつこうか窺ってる。見え見えなの、意地汚い、野良犬根性が」 (絞め殺すぞ、このクソガキ)  ネロは殺意を隠さずにはいられない。  屈辱だった。  孤独も、飢えも、恐怖も、絶望も、何一つ知らない温室育ちの少女に、自分の野心を見透かされたのが。    奥に潜ませていた、敵意のこもった眼光が、少女に向けられる。  しかしアリーチェは、その視線に口の端を吊り上げて言った。 「……いいわ、あなたの目。泥みたいに濁ってて。抉りたくなるくらい、おいしそう」  熟れた果実のような恍惚な笑みに、ゾクリと背中に悪寒が走る。  こんな狂気じみた顔、12歳の子供がしていいものじゃない。  ネロはようやく理解した。  この少女はおかしい。普通ではないと。  だが、もう後戻りはできない。  ボスに依頼された時点で、ネロの運命は決まっていた。  後悔するネロとは対照に、アリーチェは新しいオモチャを手に入れた喜びに声を弾ませる。 「気に入ったわ。ネロ、わたしの部屋へ来なさい。お人形遊びをしましょうか」  正式にオモチャ認定されたネロは、少女に従う以外、選択はなかった。  ――――これは後に父を越え、アメリカにも名を馳せるファミリーのボスへと成長する少女と、少女に全てを捧げ、ファミリーのNo.2へ成り上がる青年の物語。  まだほんの序章に過ぎない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!