7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
ピクリ、とネロの眉間が動く。
が、ポーカーフェイスは崩さない。
この程度の嫌味、今までの蔑称に比べれば可愛いものだ。
「日系人なので。これでもお嬢様の美しさを引き立たせるには最適かと」
「ふーん。ねぇ、どうしてパパの組織に入れたの? 移民なのに」
「運良く組織の構成員にスカウトされただけです」
「ほんと? カラダを売ったんじゃなくて?」
一瞬、ネロは耳を疑った。13歳の子供の口から出た言葉とは思えなかった。
「だってあなた、得意そうだもん」
「……どういう意味でしょうか」
「とぼけたってムダよ。忠犬のふりして尻尾を振っているけど、いつ主人に噛みつこうか窺ってる。見え見えなの、意地汚い、野良犬根性が」
(絞め殺すぞ、このクソガキ)
ネロは殺意を隠さずにはいられない。
屈辱だった。
孤独も、飢えも、恐怖も、絶望も、何一つ知らない温室育ちの少女に、自分の野心を見透かされたのが。
奥に潜ませていた、敵意のこもった眼光が、少女に向けられる。
しかしアリーチェは、その視線に口の端を吊り上げて言った。
「……いいわ、あなたの目。泥みたいに濁ってて。抉りたくなるくらい、おいしそう」
熟れた果実のような恍惚な笑みに、ゾクリと背中に悪寒が走る。
こんな狂気じみた顔、12歳の子供がしていいものじゃない。
ネロはようやく理解した。
この少女はおかしい。普通ではないと。
だが、もう後戻りはできない。
ボスに依頼された時点で、ネロの運命は決まっていた。
後悔するネロとは対照に、アリーチェは新しいオモチャを手に入れた喜びに声を弾ませる。
「気に入ったわ。ネロ、わたしの部屋へ来なさい。お人形遊びをしましょうか」
正式にオモチャ認定されたネロは、少女に従う以外、選択はなかった。
――――これは後に父を越え、アメリカにも名を馳せるファミリーのボスへと成長する少女と、少女に全てを捧げ、ファミリーのNo.2へ成り上がる青年の物語。
まだほんの序章に過ぎない。
最初のコメントを投稿しよう!