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「なんか悩んどることがあるんか?特別に聞いてやるぞ」  豪介は胸のポケットから取り出したタバコにマッチで火をつけた。少年は自分の影に目を落としたまま答えない。 (のんびりしとる暇ないんやけどな、まぁ乗りかかった船やし)  押すだけでは口を割らないことは新聞記者時代に学んだ。何か糸口はないかとタバコをくゆらせながら改めて少年を見ると、どこか女性っぽくて綺麗な顔立ちをしている。日焼けした顔や腕に比べシャツから覗く胸は白い。その中にいくつかアザのようなものが見えた。 「学校で虐められよるんか?」  少年は顔を上げ、もう一度うつむいて大きく頭を振る。 「ほんだら親父か?こんなアザ作って」  慌てて胸元を隠そうとした手を豪介がつかみ、シャツを開くと殴られたにしてはおかしい。胸から腹の方まで吸われたような跡がある。 「それ、親父にされよん違うんか?言うてみ、……誰にも言わんけん」  ぎゅっと唇を噛んでいた少年は、ゆっくりと口を開いた。下唇が白くなっている。 「本当の父さんじゃない。母さん結婚せずに俺を生んでホステスしてる。あのひと客で今はずっとうちにいる。母さんがいない時や出来ない時に俺のからだ触る……」 「気色の悪いやっちゃな」  出来ない時とはセックスが出来ない時のことを言っているのだろう。 (どうせ母親に言いつけられんように言い含めとんやろな)  そうやって連れ子に手を出す話は腐るほど聞く。男の子にもあることだとは考えたこともなかった。 (いや、俺もさっき綺麗な子やと思たけど……)  だからと言って男に手は出さない。 「それ水泳着か。体にそんなアザつけてたらプールの授業、出来んわな」  足元の学生かばんの横にあるビニールバッグに気がつく。 「…………うう」 「もう泣くな。ああ、腹減ったな。そういや俺は飯食いに来たんじゃ」  少年はこのままおいていかれると思い、「あっ」と言葉にならない声を上げた。 「行くぞ」 「え……でも俺、お金持ってない」 「ガキが金の心配せんでええ、早よせえ」  かばんを拾い上げ、タバコを咥えたまま後ろに手を出した。  少年がその手を握り着いて行いこうとしたら豪介が振り返る。 「いかん、このまま行ったら草まみれや。ほれ、そっちから出るぞ」 「うん」  少年は柵の間を通り抜けるが、体の大きな豪介は結局ズボンが汚れてしまった。 「あのハンカチ」 「ええ、ええ。そんな気張った店と違うけん」  手でゴミを払って道に出た。川の向こうは飲食店と言うより飲み屋街だ。おでんや焼き鳥を肴に明るいうちからみんな一杯やっている。  豪介は少し歩いた先にある中華料理店の前で足を止めた。
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