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エピローグ
「こんばんは。お約束は大丈夫だったの?」
「うん。簡単な仕事の打合せだったしね。その間に雨もすっかり止んだよ」
昼間と同じ厚手のジャケットを寒そうに着込んで、緑耶は再び絵を見に来ていた。年末で寒さ厳しい今夜は、満月がとても明るい。
「司書さんはこれからこの絵の運び込みでしょ?お疲れ様です」
「疲れないわよ。ちょっと楽しみでもあるの」
10年前に町立図書館の蔵書が溢れそうだと怒っていた司書は、現在はこの第2図書館の館長だ。いつの間にか緑耶とも気心知れた仲となっていた。
「それにしても、よくここで絵を描いていた愛鳥ちゃんが画家になるなんて感慨深いわ。この絵もここに寄贈してくれるなんて、優しい子よね。たくさんのファンに愛されるハズだわ」
そこで電話のベルが鳴り出し、彼女は慌てて受付カウンターへと走って行った。
「愛される鳥で愛鳥か」
絵から目を離さないまま、緑耶はすぐ背後の箱イスに腰掛ける。
「まったく、ずいぶん遠くまで飛んで行ったものだよ。ねえ、柾さん?」
そして絵の中の黒猫に向かって声をかけてみた。
サワサワと
サワサワと
懐かしい雨音が静かに心地よく響いてきた。
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