プロローグ

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プロローグ

「見事なもんだなぁ」 図書館の一番奥、ひと際大きな額縁に入れられた絵を見て緑耶(りょくや)は嘆息した。 幻想的な草花が茂る森の中、黒猫を背に乗せた大きな白鳥が自由の象徴のように空を舞っている。 白鳥が広げた羽はどこまでも広がっていきそうな、そんな情景が目に見えるような躍動的な1枚だった。 「来週から個展が始まるでしょ?この絵も展示したいそうで、今夜会場の美術館まで運ぶのよ。その後はアトリエのあるパリにも持って行くって。当分戻ってこないから寂しくなるわ」 「今夜か。じゃあ閉館前にまた来ようかな」 「ええ是非。それまでは展示しておくわね」 その言葉に嬉しそうに笑った緑耶(りょくや)は、年配の女性司書を振り返って会釈した。 「そう言えば運び込みのお礼にって、個展の招待券を何枚かいただいたのよ。緑耶(りょくや)さんも1枚いかが?」 「僕はいいよ。あとでチケット買って行くから」 言いながらジャケットをまくって腕時計を見る。13時を少し過ぎたところだった。 「やばい、そろそろ約束の時間だ」 「あら、外は滑りやすいからお気をつけて」 彼女に向かって手をふった緑耶(りょくや)は、大雨の中を慌てて駆け出していった。
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