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 「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と 決まりきった挨拶を無味乾燥に繰り返す。 列の流れを止めないように手際よくレジを打ち、 暇があれば品出しをして陳列棚を整える。 何の変哲もないコンビニバイトの日常である。 この趣の無い夜が、フリーターの俺には24時間おきに巡ってくるのだ。  唯一の心の潤いと言えば、午後11時過ぎに決まって 缶コーヒーとサンドイッチを買っていく一人の女性。 日中の仕事でくたびれたスーツが大人の色気を引き立たせ、 業務の最中でもふと目を奪われてしまう。 名前もどこに住んでいるのかも知らない。 その謎めいた素性に却って惹かれるのかもしれない。  俺はあの女性に夢中になっている。俗に言う一目惚れというやつだ。 前に恋人がいたのは10年以上前の高校生のときだったろうか。 当時は勉強もスポーツもそれなりにできて目立つ側の人間だった自覚がある。 だが、徐々にのしかかる社会のプレッシャーに押し潰され、 新卒で入社した企業をたった2ヶ月で退職してしまった。 その後はだらだらとバイトで何とか食い繋ぐ状況が続いている。 体たらくに月日を送る俺を好いてくれる人なんて……。 今となっては甘い誘い文句も浮かびやしない。  加速度的に胸が高鳴る。 待ち侘びた靴音はガラスを擦り抜け、俺の聴覚を直に刺激した。
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