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「契約を解消したいのかい?」
探し人は向こうからやってきた。
いつの間に店へ侵入したのか、
卓上で足を組んだ老婆が指先の青白い炎を煙草に灯していた。
「え、できるのか?」
「へへっ、できないねぇ」
癪に障る。この拳に滲む憎しみは本来誰に向けられるべきものなのだろうか。
「じゃあ、なんで現れた?」
「確かにお前さんは、あの娘の左右にはもはやいられない。
じゃがな……」
忌々しい台詞を刹那の沈黙が断ち切った。
灰混じりの煙が揺れてはそっと散っていく。
「好きの証拠は隣に居ることだけじゃあない」
さっぱり共感できない。だって、好き同士なら隣にいてあげなきゃ。
「どういう意味だよ?」
俺の制止もきかず、老婆は瞬く間に姿を消してしまった。
「おい!」
どうしようもない寂寥感だけが室内に居残る。
契約を結んだ日、俺は本能に駆り立てられて闇へと繰り出した。
この震える手は何かを掴むまで絶えず訴え続けるに違いない。
それは今日も同じである。
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