57人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
2
「いらっしゃいませ」
いつも以上に息を荒くして駆け込んだ彼女は、わざわざ俺の方を見て微笑む。
何度経験しても平静を保てない。照れを抑え切れず、俺は黙って下を向いた。
彼女は最短距離で商品をレジまで持ってきた。
俺が遠慮がちに「340円です」と告げれば、
「あ、ちょうどあります」と彼女は艶のある革財布から小銭を取り出す。
「340円ちょうどお預かりします」
レシートを手渡すと、「ありがとうございます」という労りと共に、
魅力ある笑顔を再び見ることができた。
なんてチャーミングなのだろう。盲目の恋でも別にいい。
小さく会釈した彼女は程なくして店を後にする。
普段は熱を帯びた視線で見送れるだけで充分なのだが、
今日はなぜか居ても立ってもいられなかった。
情動のままに追い駆けたい。
結果はどうあれ、ずっと胸に秘めていた想いを伝えたくなったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!