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 翌日も相変わらず、俺は独りレジを任されていた。 時刻は午後11時。もうすぐ彼女が来店する時間だ。 本人は契約の効果をはっきりとは実感できないだろうが、 彼女が今日を平穏無事に過ごせただけでいい。 馴染みの靴音が反響する。 自動ドアを抜けた彼女はどことなく鬱屈した雰囲気を纏っていた。 「……元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?」 レジ前で頻りに溜め息を重ねる彼女が心配になり、つい声を掛けてしまった。 「あっ、はい……大丈夫です」 異変は明らかだった。あからさまに声のトーンが落ちている。 昨日までの自然体な表情とは違い、作り笑顔であることは一目瞭然。 けれど、俺にはどうすることもできない。彼女の隣には寄り添ってあげられない。 「ありがとうございました」という形式的な見送りに何の意味があろうか。 結局、朝の退勤時間まで彼女の事を考え続け、8時間終始うわの空だった。
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