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余裕そうに微笑むダイチへ放送室の鍵を渡そうとした瞬間、ふはっ、と空気砲のような笑い声が割って入った。
「なんか戦隊モノみたいだな」
せっかく一致団結していたのに、またコイツは。
「うっさい、諒太」
「いいじゃん。最後だよ? 色とか決めちゃう?」
諒太の『最後』という一言で、穏やかだった水面に一滴の墨が滴り落ちたように、じんわりと寂しさが広がっていく。
――卒業は、単なる別れじゃない。
私達は全員、違う進路を選んだ。高校入学と同時に離れた友人達で、未だに連絡を取り合っている人間なんて何人いる? 昔話で盛り上がっても、近況報告で感じるのは、遠のいてしまった互いの距離だ。
違う世界に飛び込むとは、そういうこと。
「はいはい、んじゃブラック。お前の方は?」
「えっ、俺?」
「諒太でしょ、黒沢なんだから」
「じゃあ花恋はピンクな」
フッと厭味ったらしく笑う諒太へ、何も言い返せなかった。……言えなかったから、諒太を黙って睨みつけ、ブレザーのポケットをギュッと握りしめた。
「で、ブラック?」
「はい、全て順調です! 渋ってた最後の一人も、昨日やっとオーケー貰いました!」
エイジからの2度目の問いに、諒太が敬礼を返す。
誰よりも空気クラッシャーで、本当は誰よりも周りが見えていて、機転が利いて。嫌いな部分よりも多くの魅力がある人。それが、私の好きな人――。
ムカつくのに、何があろうと澄ましているこの横顔は格好良くて、やっぱりムカつく。
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