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全員に背を向けて、まるで2人きりのような世界で諒太が呟く。横目に捉えたその顔は珍しく真剣で、真っ直ぐに黒板だけを見ていた。
「わかんない。私達の計画を知ってて、実は協力したくなかった誰か、とか」
「それはない。俺がちゃんと全員交渉した」
「そっか……」
ひっそりと話しながらも、黒板消しを持った手は休みなく動かす。
全て消す。綺麗に消す。言えずにいた気持ちも一緒に、全部消す。
――――言わなくて良かった。
私の選択は正しかった。今日まで伝えずにいた甲斐があった。だって、ウケるんだもん。私のこの想いは、諒太にとって笑える話なんだ。
「さぁて、どうするか?」
カタンと黒板消しを置いた諒太が、右手を腰に当てながら首を傾げる。
「なかった事に。今はこんなのに気を取られてる場合じゃないしね。切り替え大事」
両手をはたいてから諒太を見返すと、彼はひと呼吸置き、一度だけ頷いた。
「はぁーい、みんな注目! 花恋さんがガチでお怒りなので、これ書いた人は倍返し決定でーす!」
――――は?
「ちょっ、りょ――」
「ただし! 俺にこっそり名乗り出てくれたら、後は引き受けまーす。タイムリミットは卒業式が終わるまでね。以上、終了でーす」
機転が利く、という褒め言葉は前言撤回。だが、教室にまん延していたモヤを一掃してくれたのも事実なので、やっぱり私は何も言えなかった。
――迎えた卒業式本番。今朝起きた出来事は、いつの間にか、しんみりとした空気の中に溶け消えていった。
式が進むにつれ、すすり泣く音と同様に、緊張感も増していく。
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