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見守るだけというのも、それはそれで心臓に悪い。ドクン、ドクンと次第に大きくなっていく鼓動が、カウントダウンを刻む。
『一同、起立』
数百人の生徒が一斉に立ち上がり、ガタンッと大きな音が体育館全体に響く。
『礼』
頭を上げると、背後で在校生席がガタガタと鳴る。
送られる側の私達は、もう座れない。
『卒業生、退場』
司会のアナウンスと共に流れはじめた晴れやかなBGM。ステージ上のスクリーンに映された【祝・卒業】の文字。ゲリラ豪雨のような拍手の中で、卒業生が1組から順に歩き出す。
さん……に……いち……。イけ、エイジ!
映像の暗転と同時にピタリと音楽が止まると、スクリーンに映った派手な金髪男子がこちらへ手を振った。我らが放送部の部長、エイジだ。
だがもちろんエイジはこの体育館にいるし、今も素知らぬ顔でスクリーンを眺めている、はず。
『じゃあ、いくよー!』
ナオのハツラツとした声が大音量で響く。まばらに続いていた拍手は完全に消え、出口に向かっていた卒業生も軒並み足を止めていた。
『さん、に、いち、どーそ!』
『3組、ニノミヤエイジ。――ナオ、好きです』
『……は? アタシ?』
『うん。好きです』
瞬く間に体育館中が騒然となったが、それでも映像はお構いなしに続く。
『4組ワタベヒロユキは、ササキアミさんのことが大好きですっ!』
『2組のヤナセでーす。ケイスケ見てる? 好きだよー! わたしと付き合ってーっ』
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