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先生達が2人、3人と慌ててステージ横の音響ブースへ入っていく――が、甘い。
なんとなしに諒太を見ると、彼も先生達の動きに気づいたのか、すぐにこちらを振り返った。そして、互いにニヤリと微笑む。
『3年4組、マエダです。イシカワヒカリさん、同じクラスになった2年の時から、ずっと好きでした』
スクリーンに映し出されていた映像が消されても問題ない。音声は音響ブースからでは消せないのだから。
『あっ、えっと、1組の――』
自分達がやろうとしている事を思えば、数分とせず止めに入られるのは明白だった。この3年間、放送部として培ってきた技術を見くびってもらっては困る。
私が入れ替えたDVDに入っていたのは、公開告白に賛同してくれた生徒達の映像と、冒頭のBGMのみ。残りの音声は切り離し、校内放送を使って体育館へ流している。
これは途中退場したナオと、完璧なタイミングで無線通知を送ったエイジの連携プレーってやつだ。
今では――――ほら、腹痛を装って放送室へ向かったナオも、混乱に乗じて1組の群れに戻っている。
――“10年後の自分へ”という卒業制作を撮影している最中、私達は一人の生徒の淡い告白を聞いた。
言えなかった気持ちを抱えたまま卒業するのはツライ。遠すぎて言えない、近すぎて言えない。理由は違えども、あのとき言っておけばよかった、なんて後悔したい人間がどこにいる?
『言えなかったけど』と未来へメッセージを送るくらいなら、未練も後悔も、全てココに置いていく方がいい。私達は、そう思った――。
強制退場となり賑わう吹きさらしの渡り廊下で、先生がこれでもかと声を張り上げる。だが、大きくなっていく人だかりは、容易くそれをかき消した。
もう誰も泣いていないし、それどころか右も左も、全員が嬉々としている。
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