最後のイタズラ

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片側一車線の道を仰々しく囲う街路樹。『寄り道禁止』の校則を破れ、と言わんばかりの場所にあるファミレス。カラオケ。 3年間で見飽きてしまった景色でも、今日は背筋を伸ばして歩きたくなる。 校門までの緩やかな坂道に並んでいる卒業記念樹の桜は、まだ開花すらしていない。きっとこの木々は私達のためではなく、新たに通い始める人のためにあるのだろう。 「失礼しまーす」 職員室の前に立ち、深呼吸で緊張を振り払ってからドアを開けた。こんな事をしたのは、初めてこの引き戸に手を掛けたとき以来だ。 「おっ、天野(アマノ)早いな」 「やらなきゃいけない事があるので」 さすが卒業式。いつもはジャージ姿の体育教師も、今日ばかりはカッチリとしたスーツを身にまとっている。ガタイの良さがより一層際立って見えるけど、悪くない。 「教室の鍵だよな?」 「はい。あと放送室と、図書室の鍵をください。あっ、体育館はもう開いてますか?」 「ああ、先生達が準備に行ってるよ。えっと放送室と図書――あった。図書室って何の用だ?」 「返し忘れてた本があって」 鍵を受け取るまでの間に、何気ない会話を2つ3つと交わす。 脳内リハーサルは完璧なんだ。首尾よく、違和感なく、どんな話題が飛び出しても卒なくこなす。 「そう言えば、放送部は卒業制作の実行委員も兼任して大変だったろ?」 先生はこちらを見もせず、お疲れさん、と続けた。 「まぁ編集は大変だったけど、10年後にみんなで観るのが楽しみかな。厄介者が揃って卒業するし、先生はラクになるでしょ?」 冗談に笑顔を添えて、差し出された3本の鍵を受け取る。
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