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「ははっ、お前たち放送部の面々は特にな。……でもな、手が焼ける子ほど可愛いって言うだろ。あながち嘘じゃないぞ」
先生の表情が緩み、いつもは上がりっぱなしの眉が優しく弧を描く。
何回も怒られた。友人達と何度も『ムカつく』って言いあってきた。でもやっぱり、嫌いじゃない。
「今日で最後なんだ、問題は起こすなよ」
「それは他の4人に言うべきだね。じゃ、失礼しました」
仰々しく頭を下げてから、念押しの笑顔をもう一つ。
「あっ、図書室の鍵は施錠して返却な!」
「はーい」
背後から聞こえてきた声に手を上げ、廊下の角を曲がったタイミングで一目散に走り出す。
大丈夫。バレてない。――良い子ちゃんタイムは終わりだ。
1番乗りで教室の鍵を開けると、急いで次の準備を始める。鞄は机の横のフックへ、お気に入りのボールペンはブレザーのポケットへ。2冊の本の間にはDVDを挟む。
さて行きますか、と視線を上げた時、ふと黒板の隅の文字が目に止まった。
【黒沢諒太】
彼は昨日の日直。頬杖と猫背で、毎日私の視界を遮っていた人。私の……好きな人。
後方にある壁掛け時計を確認すると、消した痕さえ残らないように、左から丁寧に黒板消しをかけていく。
机のラクガキも、ロッカーの上に置かれていた誰かさんのジャージも、背面ボードに貼られていたクラス報も全てなくなった。ここが私達の教室だった痕跡は、もう何もない。
私達は卒業するんだから、なに一つ残しちゃいけない――。
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