最後のイタズラ

3/7
前へ
/15ページ
次へ
「ははっ、お前たち放送部の面々は特にな。……でもな、手が焼ける子ほど可愛いって言うだろ。あながち嘘じゃないぞ」 先生の表情が緩み、いつもは上がりっぱなしの眉が優しく弧を描く。 何回も怒られた。友人達と何度も『ムカつく』って言いあってきた。でもやっぱり、嫌いじゃない。 「今日で最後なんだ、問題は起こすなよ」 「それは他の4人に言うべきだね。じゃ、失礼しました」 仰々しく頭を下げてから、念押しの笑顔をもう一つ。 「あっ、図書室の鍵は施錠して返却な!」 「はーい」 背後から聞こえてきた声に手を上げ、廊下の角を曲がったタイミングで一目散に走り出す。 大丈夫。バレてない。――良い子ちゃんタイムは終わりだ。 1番乗りで教室の鍵を開けると、急いで次の準備を始める。鞄は机の横のフックへ、お気に入りのボールペンはブレザーのポケットへ。2冊の本の間にはDVDを挟む。 さて行きますか、と視線を上げた時、ふと黒板の隅の文字が目に止まった。 【黒沢(クロサワ)諒太(リョウタ)】 彼は昨日の日直。頬杖と猫背で、毎日私の視界を遮っていた人。私の……好きな人。 後方にある壁掛け時計を確認すると、消した痕さえ残らないように、左から丁寧に黒板消しをかけていく。 机のラクガキも、ロッカーの上に置かれていた誰かさんのジャージも、背面ボードに貼られていたクラス報も全てなくなった。ここが私達の教室だった痕跡は、もう何もない。 私達は卒業するんだから、なに一つ残しちゃいけない――。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加