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黒板を綺麗に整えたら、今度は今日の日付を綴っていく。
それにしても、どうしてチョークはこうも書き難いのか。かれこれ12年も触れてきたのに、自分の名前【天野花恋】すら歪になってしまうから不思議だ。
――ただ、どんなに下手くそでも、好きな人の字だけはなぜか分かってしまうから、これもフシギ。
完成した自分の字を一笑した私は、当初の予定通り、体育館へと急いだ。
約束の時間まで残り少ないし、自分なりの精一杯を発揮したし、切り替えは大事……だよね。
「おはよう先生。その花って先生がやったの?」
体育館に入ると、まずは何食わぬ顔で先生へ声をかける。
「まさか! これは花屋さんに依頼して朝早くに、ね」
演壇の横に置かれた大きな花瓶と、先生が何やら微調整している豪華な花。床にはグリーンのシートが敷かれ、壁は手作りの花飾りで彩られ、ひんやりとした空気は変わらないのに、“特別な日”オーラで窒息しそうだ。
「それより天野さん、どうしたの? その本は?」
「これは今から図書室に返しに。てか先生、体育館でピンクのボールペン見てない?」
「見てないけど、大事なもの?」
先生の言葉に、心臓が先にピクリと反応した。
「大事っていうか、貰い物。昨日準備してた時に落としたんじゃないかなぁって……音響ブース入っていい?」
それとなく周囲を見回しているフリをしながら、ステージ横の音響ブースへ向かう。プロジェクタ用機器のそばにあった【退場用】と書かれたDVDの中身を入れ替えれば、本当の“準備完了”だ。
「あったー!」
大げさに叫び、アピールも忘れない。
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