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『退屈』、心から溢れ出した言葉は、彼の消化不良を克明に表していた。非日常の連続を虚ろに見つめながら、ソファの柔さにまかせ、半身をどこまでも沈みこませる。彼の求めるものは、今は亡き不摂生の批判だった。
成人病の養生と危機がごまかしていた無機質な生活の連続を、彼は悟り始めていた。未来を前提にした指標は崩れ去り、情報を素早く処理し、幸せを見出せない彼の感性は無造作な価値観の中に取り残されていく。高騰していく日々のときめきも尊大な顔で彼を見下ろし、手を差し伸べる気配もない。
梶崎は自分で考えることが出来ないという一点において、特に致命的だった。自分の夢も望みも、他人の評価がなければ分からない。だからこそ、『地球最後の日に何をするか』というありふれた命題に今、直接に、残酷なひとつの答えを突きつけられているというわけだ。
彼の顔は無我の境地。餌を欲する鯉のようにパクパクと口を開け、脳の天辺に刻み込まれた文字を抵抗もなく受け入れる。
『地球最後の日に、自分で考えて、起こせた行動は、肩を丸め、ウエハースを貪ることだけでした』
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