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3章 計画
「席まじで最高なんだけど」
「席替えする前クソみたいな席だったしね」
「今日カラオケいかね?」
「いいねー美玖とか麻里奈も誘っていこう」
「てか今日の吉村やばくなかった?」
「この後、自販行ってから部活いこうぜ」
「まじで疲れたー」
「加藤早くこいよ」
教室に溢れかえる会話は、雑音と化してノイズに変わり僕の中でザワザワになる。
この雑音ですら心臓の鼓動が早くなって動悸が激しくなって、落ち込む。
今日の席替えで僕は前列になった。それも真ん中の方。
窓際席はついに失い、一日中沢山の視覚を背中に浴びて授業を受けた。
そして今日7月14日は、先週だが天気予報士が言っていた通り梅雨明けの晴れとなった。
僕がいた窓際席はちょうど三屋の席となり、周りの席はよく三屋と絡んでいるカースト上位の須藤玲奈や宮下麻里奈、中村美玖がいて騒いでる。
今日、3限の世界史が急に変更になって自習の時間になった時に、窓際席のあいつらが僕をアニメキャラにもじって小言で何か言っているのが聞こえた。それでなんとなくニタニタしていたのがわかった。
昼休み、気にしないようにしてもやっぱり気にしてしまうから、聞こえてきたキャラをネットで調べるとどうやら醜い容姿をした下っ端ゴブリンの名前だった。実際僕の容姿は良くないことも自分ではわかっている。
けどそれを見てまた動悸が激しくなり、結局弁当を食べることなどできなかった。
「はい、すみません遅くなりましたー」
加藤が教室に入ってきた。
「じゃあ今日席替えだったけど、あんまり騒ぐなよ。明日の授業変更とかの連絡事項は特になし。あ、もうすぐ夏休みだからなー。勉強もそろそろ力入れてけよー。はいじゃあさよなら」
今日も、やっと学校が終わった。
そして25日は終業式、夏休みに入る。
これが今の僕の唯一の救い。
でもそれまではこの席だし、なんなら夏休みを超えてもまだある程度はこの席だ。
ああダメだ。
溜息が漏れる。早く帰りたい。
またいつもみたいに教室がうるさくなって気持ち悪くなる前に帰る。
ナイキのバッグは、教科書の他に手をつけられなかった弁当の重みもあって情けなくなる。
一番に教室を出て階段を降りる。下駄箱から靴をとって外に出た。
でも今日はこのままバイトをして家に帰ることはできない。
バイト後、椎木なつみの家に向かう。
先週のあの時、駅までの帰り道で彼女から来週のバイトのことについて聞かれた。
嘘を言ってまた事態がめんどうくさくなるのは嫌だったから、正直にシフトについて教えた。
それっきりあまり話すこともなくて駅に着いて普通に解散となった。
するとその日の深夜1時ぐらいに、彼女からラインがきた。
「1週間後木曜日のバイト終わり、私んち来て!5階ね!」
これとともに、彼女のうちであろう場所にピンが刺されたGoogleマップがURLで送られてきた。
正直たじろいだ。人の家に上がった事は中学の時にクラスメイトの家にゲームをしに行ったぐらいだ。さらに一応女子の家に上がったことは生きてきて初めてだ。
というか今週の木曜日はまたバイト後であったため、「木曜日以外は?」と送った。3分後ぐらいに「できれば木曜がいい」ときた。
「さすがに公園とかにしませんか?」と返した。何故か敬語で。
女子の家とか、ましてや不登校の人の家に行くなんてなんというか色々抵抗がある。
だから緊張感と不安感で携帯をずっと眺めてた。
数分後に「公園寒いじゃん」ときた。
さすがに彼女は適当なことを抜かしすぎていた。夏前だし寒いという事は絶対にない。何故か僕を自分の家に入れたい他の理由があるのかもしれないと思った。
あえてそこから5,6分置いて「帰りとかもあるでしょ」と送った。そのまま既読がついたから少し驚いた。10秒くらいたって「終電までには!」ときて親指をグーサインした例のウサギのスタンプが返ってきた。
ということで彼女の家に行くこととなった。
母親には、一応今日はバイトのことで帰りは遅くなる、と嘘をついてきた。
しかし今日でこの妙な関係性も終わりにする。流石にこれ以上彼女に振り回されるのは御免である。
そんなことを考えていたら高井駅についた。電光掲示板横の時計は15時50分を指している。
Googleマップを見て彼女の家の位置を確認する。
どうやら先週行った西谷駅の近くにそのピンが刺さっていた。
だからあの公園によく行くとかなんとか言っていたのか。
改札を抜けホームで電車を待つ。
なんだろう、心なしか電車を待つ人々の顔はどこかいつもよりも晴れやかな気がする。
ここ最近ずっと雨で、今日やっと梅雨が明けたからだろうか。
彼らに反比例するように僕の気持ちは暗い。窓際席を失ったあげく、そこには三屋らが座っていて全然晴れやかではない。この後バイトだし。
「間もなく、2番線ホームに各駅停車…」
僕だけがホームにいる異物質みたいな、そんな気持ちだった。
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