世界の終わりと希望

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世界の終わりと希望

『…………あー、あー。………接続良好。記録媒体に問題なし ……えっと、音声入力起動。映像記録開始。セキュリティ5、はぁめんどくさい 勝手に見ろってんだ ………まず、昨日コーヒーマシンがついに壊れたらしい死活問題だ だから設備管理部共にさっさと直せと散々言ったのにこの始末だ。笑えない …話を戻そう 先日、世界が滅んだ 正確には滅びかけている進行形だ B級映画の様な展開だ。大学の頃お前が観たいと喚いたから仕方なく観たエイリアンvs忍者シャークを思い出した 三日目のピクルス入りのハンバーガーの様になんとも言えない不快感だ …話が逸れるな 仕方ないだろ?これでも動揺しているんだ 他の陰気でくだらない足の引っ張り合いばかりしてる奴らは研究資金欲しさにパーティに行った 俺は誘われなかったしもし誘われても行かなかった 当たり前だろ?あんなバカの集い 記憶領域と時間の無駄だ 非効率すぎてそれだけで胃が悪くなりそうだ …… それで、五日ぶりの睡眠を貪って 軽快なアラーム音と地響きで起きてみれば、地上は更地になったらしい ハハッ…お前と研究室でハゲた教授のデスクを爆破した時を思い出した …チッまずいな ジャリジャリする …. なんとか施設の管理システムにアクセスしてドローンのカメラで地上を見ると我が国は滅んだとさ ノストラダムスの大予言がこの前ガセだったってバラエティーで笑ってたくせに簡単に滅ぶなんてな ブラックジョークでも体を張りすぎだ …クソッタレ…… はぁ… 当施設は核シェルター機能の証明がされた良かったな設計者共 お陰で死にそびれた… エリア3ブロックまで大破緊急措置により隔離 つまり、俺たち研究者を閉じ込めていた暇人共は全滅 それだけは最高に痛快だ ピザとコーラで乾杯したいものだね 奇しくも地熱発電により各生命維持の為の施設は生きている 水の浄化槽発電人工食料衛生施設医療部リラクゼーションなんでもある 本来数百人が数十年は他に依存せず活動できる施設だありがたいね ………… …… …… … ………… …… …ッ ………一人には広すぎる はぁ………… せめて、無駄話が好きな騒がしい奴でもいれば気晴らしになったんだがな ……らしくないな 何度飲んでもこのコーヒーは不味い …地上の汚染レベル5 人は生きていけない ネットもテレビも無反応だ 衛星は自社のが生きているらしく映像は見えた 俺が知っている地表ではなかった 俺の他にも生き残りがいるかもしれないが あまり期待はできないだろう 外は全身防護スーツでも二時間が限界だろうな それほどの惨状だった きっと俺はこの大きな棺桶の中で死ぬんだろう 幸か不幸か ハッくだらない… 折角だお前が置いて行った酒を後で飲むか 恨むなよ 置いていったお前が、悪いんだ…』 … 『ごきげんよう 今日も変わりなく静かでモーターの音がやけにうるさく 気づいたら警備室に置いてあったリボルバーの銃口をこめかみに添えていた 最高にハッピーな朝だ美しい朝日が見える モニター越しだけどな … 研究レポート《001》 今更だって?いいだろ俺の勝手だ まずは今日もコーヒーがまずい 最初の記録ファイルの記録日から一週間が経った いっその事こと外に出て死んでやろうかとAIと仲良く料理して最後の晩餐でも堪能しようとワインを開けた時だ 人工音声が流れて俺を呼びやがった んん…「博士。生体研究ブロック1にて培養槽に変化あり。確認をお願いします」だとよ 俺結構声真似上手いだろ? 俺は暫し情けなくも固まった ワインボトルとシチューが緩くなるななんて頭に過ぎった きっととっくに狂っていたんだろうな 自分の研究を忘れていたなんて 半ば自動化された場所だから俺がいなかろうが問題なく機能している 仕方なく着ていたエプロンを脱いで習慣化された白衣を着て当該ブロックに向かった 生体認証でセキュリティを解除してラボに入る AIからの親切な「おかえりなさい博士」なんて皮肉にしか聞こえなかった 習慣で端末にアクセスし立体映像から中の様子の記録を見る ん?培養槽01に……異変? 足早に向かった 階段を降りて分厚い金属の壁と強化ガラスに隔たれた中の部屋に入ると 三つある生体培養槽の一つが割れていた 正確にはヒビが入っていた 成人男性でも道具がなければ傷ひとつつかないのに 俺は驚愕する 正直世界が滅んだことよりな 近づいて確認した AIが危険だと静止しろと告げるが聞こえなかった まさかな、こんなどうしょうもない 自身すらも終わらせようとした日に 俺たちの研究が 成功した まだ十歳になる手前ぐらいだろうか 正直年齢当てなぞ中学の時担任の年齢をプラス20させた時から自分でも自信がない 中の培養液が静かに流れている 俺はとりあえずコントロールパネルを操作して開放した するとガラス容器の中から倒れる様に迫ってきた体を受け止める …暖かい 生きているから当たり前なのに 俺は奇跡が起きたかのように心が震えた 裸の実験体を俺の白衣で包もうとした時だった そいつが目を薄く開いた 俺は今更気づく 培養槽を素手で傷付ける様な生命体だ 俺なんて楽に殺せるだろう だが俺は恐怖心はなかった だってこいつは 俺の…俺たちの … 実験体01は蒼銀色の瞳に俺を映した それがなんだか恥ずかしく感じ目を逸らす 詩的だとお前は笑うだろう 許してくれよこんな時ぐらい 奴はゆっくりとその細い腕を伸ばして俺の頬に触れた 殴るでもなく潰すわけでもなく やけに優しく触れた そしてただ俺を見つめ ゆっくりと目を閉じて眠ってしまった 俺は動けなかった… まるで離れない様にこいつはいつの間にか俺の指を握っていた まるで親に縋る子供…いや、それはあり得ない やめておこう冒涜だ 科学者らしくないのはわかっている 人間性など最も遠かったのにな 俺は実験体を抱き上げて 隣のもう使われることのないはずの 当直室のベッドに運んだ ……神がいるならばなんて無慈悲で恐ろしいのだろうな 今更命を背負わせるなんて… ……… … これで初回記録を終了する』 はぁ…… ため息を吐くと後ろから白衣を引っ張られた !? 「………」 「……01《ゼロワン》か。どうした?眠れないのか?」 そう言うと01はじっと口を半開きのまま俺を見つめる …わからない 生憎こいつには俺に対する攻撃性はなかった こいつになら殺されてもよかった 正当性があるのは確かだからな 奴は口をモゴモゴと動かしているが声にならない音を発した まだ口の筋肉がうまく扱えないらしい 一応精密検査をしたが肉体には問題がないらしい AIによると人間ならば十歳ぐらいらしい 初めて当たったな 仕方なく01のピンと立った耳の間の柔らかな頭を撫でる すると丸い目をさらに丸くし 尻尾を振った 昔隣の家にいた犬と似ている 確かシベリアンハスキーとか言う犬の遺伝子が組み込まれているはずだ そう、この実験体は新人類である獣人なのだ この俺が生みの親だ 勿論母体としてやDNAはあっ、半分俺じゃん DNAの検体として自分のを使ったんだった なら俺の子供…いやよそう 父親なんて、恐ろしすぎる ぎゅっ 「ん?」 01が俺を見つめ指を握る こいつはまだ上手く話せないからか こうやって俺を見つめる その時俺は、見透かされている様で居心地が悪いのに目を逸らせない 初日こいつは目が覚めると周りをキョロキョロと見回して鼻をひくつかせていた そして冷蔵庫の前で炭酸水を飲もうとしていた俺を見つけ一瞬で迫り抱きついてきた 殺されるのかと痛みに身構えたが何もなく 激しく揺れる尻尾とぐりぐりと擦り付けられる頭に 犬じゃん。と無味な感想を抱いた それから奴は俺から離れず困った どう扱っていいかわからない とりあえず腹が減っている様でグゥグゥと音を鳴らしていたので俺用の最後の晩餐コースを差し出した するとスプーンも扱えず手も口もテーブルも素敵なデザインに染め上げていたので仕方なく手本を見せ食べさせた すると気に入ったらしくぱくぱくと食べた なぜか食べ方はわかっただろうに俺がスプーンで掬って与えないと口にしなかった 面倒な奴だ あっという間に鍋の中身がなくなった お腹いっぱいになったのか席に座って俺がまずいコーヒーを飲んでいる俺の膝に跨りピッタリとくっついて寝た 重いし暑いし困った 筋肉痛になりそうだ 仕方なくベッドに運び離れようとしたが俺の白衣を掴んでいて離れられなかった 後でわかったが握力は人間の50倍はあるらしい 設計者は馬鹿らしいな … 俺か まぁいい 力加減は身についている様だし子供だ なんとかなるだろう 激動の一週間で考えるのも疲れ果て 毛の主張が激しい生き物と共に寝た 生暖かい感触で目覚めた なんと01が俺の頬を舐めていたらしい ベタベタで不愉快だ 奴は全裸で俺に跨って覗いていた近すぎる どかして俺は製品生産室に向かう 「ベル。こいつの衣服を製作してくれ。とりあえず五着ほど」 「…注文完了。完了まで二分。…完了しました博士」 「…なんだこのデザインは??」 「何か問題でも?」 流暢な言葉でAIのベルが問う 半袖短パンはいいが Tシャツにいぬんちゅと書かれている 他のTシャツも同様に様々にヘンテコだった 「こんなの注文してないぞ」 「はい。ですが科学の発展とはユーモアと一欠片のリアリズムと仰ってたではありませんか?」 「記憶にない」 「xxxx年x月x日03:46…べるぅ〜科学とは「やめてくれ!どこで声真似なんて覚えた」言語モジュールに初期搭載されておりました」 「…悪趣味め」 あいつのニヤけ面を思い出した 「もういい」 着れればいいだろ 隣の01はじっと俺の服を掴んで固まっていた 着方をわからないから仕方なく着せてやった これで脱医療服だ ……俺の母国語で書かれたTシャツを着て俺を見つめるこいつは なんだか居た堪れなかった
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