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事の起こりは一か月前。
領主である父に呼ばれたポールは、理由が分からずビクビクとした足取りで執務室へ向かった。
「お呼びでしょうか、ち、父上」
そこのはふたりの兄がいた。兄弟がそろって呼ばれるとは思わなかったので戸惑う。しかし、その場にとどまっているわけにもいかず、兄たちの横に並んだ。おぼつかない動きで礼をとると、長兄からの冷たい眼差しが刺さる。今すぐ帰りたい衝動にかられ、手汗がにじんだ。
兄弟がそろったのを確認した父が話始めると視線が外れて、こっそりと息をついた。しかし続く父の言葉にポールはまた息を飲む。
「長男のアランも十三、下のポールも十になり良い頃あいだろう。今日お前たちを呼んだのは、後継の選定に入るためだ」
他の領地とは違い、この地の領主は代々、実力主義。年に関係なく、知力、武術、魔力を加味し息子の中から最も優秀なものが選ばれる。
兄たちは期待からか高揚していたが、ポールはこわばった。
共に強い魔力を持ち、知に長けている長兄のアランと武に長けている次兄のルイ。後を継ぐのは優秀な兄のどちらかだといわれている。間違っても出来損ないと言われるポールではない。そこまで考えが至ると胸をなでおろした。形式上呼ばれただけだと思ったからだ。
「これからお前たちにはいくつかの課題を受けてもらう。その結果から、相応しいものを見極める」
そこで言葉を切った父が右手を上げると、手のひらが淡く輝いた。その光が一瞬強く光ったかと思うと、三つに分かれ兄弟たちの元へ飛んで行く。ポールは思わず腕で目を隠し後ずさった。光が収まったところでこわごわ目を開けると、宙に白い小さな粒が浮いていた。乳白色で光沢がある。小粒の真珠にも見えたが違う。
好奇心からまじまじ眺めたが、何か分からずに首を傾げていると、父が思いもよらないことを言った。
「それはある植物の種だ。まず最初の課題として、その種を育て上げ開花させよ」
ポール思ってもみなかった課題に目を見開いて絶句した。
「お待ちください!」
声を上げたのはアランだった。普段冷静な彼が声を荒げるのは珍しい。
「このような植物を育てることが領主になることとどう関わって来るのでしょうか。もっと私達の実力を見る方法で競わせていただきたい」
「確かにな。花を咲かせたからってなんになるんだ?」
続けてルイも不満そうに言いつのる。しかし、父は表情一つ変えることはない。ポールは口をはさむことも出来ず様子をうかがった。
「お前たちがどう思おうが関係ない。最初の課題は代々これだ。種を育てぬというなら、候補から外れるだけのこと。それでも儂は一向にかまわない」
兄たちは開きかけていた口をつぐんだ。しかしその顔には不満の色が濃い。だが不承不承、種を受け取った。ポールもこわごわと手を伸ばす。手に取った種はやはり、つるりとしていてなにかの宝石のようだった。
「花を育てあげたものから、次の課題を与える。しかし、この花を咲かせられぬようでは、追放もあるから覚悟するように」
途端にその種の重みが増し血の気が引く。思わぬ展開についていけなくて胃が痛む。知らないうちに上着のあわせを握りしめていた。
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