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父の話が終わり、種と共に自室に戻るとソファにぐったりともたれた。
ポールがそのままでいるとばあやが茶器と共に部屋に入って来た。いつもは所作に厳しい彼女も、様子のおかしいポールに何も言わない。しばらくすると辺りに甘い香りが漂った。
「ずいぶんとお疲れですね。そんなに難しいお話でしたか?」
ローテーブルの上に湯気のたったカップが置かれる。匂いにつられ手に取ると、カップの温もりが手に伝わった。そこで初めて指先が冷え切っていたことに気づく。冷えた指先を温めるようにカップを両手で包み込み一口飲んだ。カモミールの優しい味に、胃の痛みが少し和らいだ気がした。
「ねぇ、ばあや。これ何の種か分かる?」
一息つくと、持ち帰った種をばあやに見せる。彼女は顔を近づけじっくり見たが首を横に振った。
「見たこともない種でございますね。この種はどうなさったのですか?」
ポールは先程のやり取りをばあやに伝えた。話しているうちに疑問が沸き上がる。
「こんな課題がなんてあったなんて知らなかったよ。父上の時にもやってたんなら何か知らない?」
ばあやは少し考えこんだが、申し訳なさそうに首を振る。
「申し訳ございません。私のようなものには、そういったことは知らされませんので。ですが課題ならば、大事に育てて大きな花を咲かせなければなりませんね」
「僕は継ぐつもりなんてないから、別に立派なのはいらないよ。咲いてさえくれればいいんだから」
「今からそんな弱気はだめですよ。坊ちゃまも領主候補の一人なのですから。鉢は私の方で用意しておきますね」
ばあやはそう言うけれど、波風立てずに平穏無事に暮らせればいい。鉢の手配をするばあやを横目にポールはそう思う。
どんな植物かは分からないが、とりあえず土に埋めて水をやれば成長するだろう。難しい語学や剣の試験でなくてよかった。追放すると言われた時には、血の気が引いたがこれならどうにかできそうだ。お茶を飲みながらこの時は軽く考えていた。
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