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しかしポールの考えに反し、あれから一か月。
毎日水をやっているのにいっこうに芽が出る気配もない。日当たりも良い場所におき、苦手な魔術からも栄養を付与した水も試してみたが駄目だった。このままでは出来損ないの烙印と共に追放されてしまう。
あせったポールは場所が悪いのかもしれないと中庭へと持って行ってみることにした。鉢を抱えて歩いていると、突然背を思いっきり叩かれ息が詰まった。
「こんな朝早くに起きてるなんて珍しいな!」
「……ルイ兄上」
振り返ると、模造刀を下げたルイが立っていた。おそらくいつものように、騎士団の早朝訓練に自主参加してきたのだろう。水浴びしてきたように髪が濡れていた。
ポールがうらめしげに名を呼ぶも、どこ吹く風で笑っている。しかし、一度大きく瞬きしたかと思うと小首を傾げた。
「お前なに持ってるんだ?」
「い、いえ! 別になにも」
慌てて背後に隠そうとしたが、ルイの動きの方が早い。あっさり見られてしまった。
「それって、父上にもらった種のか? なんだ、お前。まだ芽も出てないのか」
ルイの指摘に顔が赤くなる。それでも気になり尋ねていた。
「……ルイ兄上は、順調なのですか?」
「俺のは芽は出たんだが、まだ咲かねぇんだよな」
ポールは芽さえ出なくて悩んでいるのに。何でもないように言われますます落ち込んだ。でも、ルイならどうすれば教えてくれるかもしれない。勇気を出して尋ねようとした時だった。
「何を朝から騒いでいる」
「アラン」
「アラン兄上」
眉間に皺を寄せたアランが本を片手に立っていた。魔術の応用や領地経営の指南書といった書庫に収められている専門書だ。
「見本になるべき我らが秩序を乱してどうする」
「へいへい。相変わらずアランは固っ苦しいな」
「言葉遣い」
「はいはい。申し訳ありません、アラン兄上様」
アランの物言いに思わず体が縮こまる。ポールが何も言えないでいると、ルイが経緯を話してしまった。恥ずかしくて顔が上げられない。聞き終えたアランが口を開く。
「お前も出来ないのであれば、他者の倍は努力すべきだ。それでも、出来なければほかの方法を模索しろ。上に立つものとしての自覚をもっともて」
「……はい」
足元に視線を落とし、目も合わせないポールにため息をつくと、アランは去って行った。
「アランはもう花も咲いたらしいぜ。もう次の課題に入ってるみたいだし」
並んで見送ったルイが独り言のように呟く。お互い負けてられないなとルイが行ってしまっても、しばらくポールはその場を動けなかった。
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