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あれからポールは朝食前には中庭に行き、植物の手入れを教わっている。庭師の教え方がいいのか、枯れずに少しずつ大きくなっていった。最初はひどく緊張していた庭師も今は少し砕けた物言いで教えてくれる。
見習いの子供、アンリとも一緒に作業するうちにすっかり打ち解けた。初めて出来た兄弟以外の同世代の知り合いが少しくすぐったい。
今もアンリの作業を手伝いながら、頭に浮かんだ疑問をぶつけた。
「アンリはどうして庭師になりたいの? 家が庭師だから?」
「変なこと聞くな。そんなの楽しいからに決まってるだろ!」
そう言ってぐるりと周囲を見回す。
「身分なんて関係なくさ、良いもの見たらみたら感動するだろ。それが俺の作った庭だったら最高じゃないか。この庭もそのうち俺が今以上のものにしてやるよ!」
やる気にみなぎった目は輝いている。その様子が羨ましい。視線に気づいたアンリが首を傾げた。
「ポールはやりたいことないのか」
「やらなきゃいけないことは、沢山あるけど、やりたいことなんて考えたこともなかったよ」
「お偉いさんていうのも大変なんだな。めんどくさいことばっか考えなきゃなんなくってさ」
「そんなことないよ。僕は父上や兄上たちに比べたら全然……」
ぼそぼそと喋るポールを見ていたアンリだったが、苛立ったうめき声をあげる。肩を怒らせ立ち上がると指を突き出した。
「いいか、お前はお前だ! 他人と比べんな。花だってな、同じ日にまいたって成長が早かったり遅かったりするんだ。でも、ちゃんと世話すりゃ必ず花は咲く。お前も、いじけてないでやりたいこと考えてみろよ。それがどんな馬鹿なことだって俺が応援してやる!」
兄弟子だからな!と笑うアンリに釣られて、ポールも声を出して笑っていた。
その日の晩、ベットの中で初めて自分のやりたいことを考えた。
「僕が楽しいこと」
アンリのように夢中になれること。今までやって来たことを思い返す。勉強、武術、魔術……どれも苦手なことばかり。そんなのはない、と落ち込みかけた時、頭を過ぎるものがあった。キラキラ輝くあれが好きだ。
(そうだ、僕は――)
考え込んでいたはずなのに、いつの間にかポールは眠っていた。
「早く起きなさい。このお寝坊さん」
「……へっ?!」
声に目を開けると、鼻先から覗き込んでいる小さな生き物がいた。驚いて思わず後ずさったがベットヘッドに思いっきり頭をぶつけ、声にならないうめきが漏れた。
「もう、出てこれなかったらどうしようかと思っちゃったわ」
ポールの様子に頓着することなく、そんなことを言うのは親指くらいの小さな女の子だった。オレンジ色のワンピース姿で宙に浮いている。
「君なに?! どこからきたの?!」
警備がしっかりしているはずの屋敷内の自室に見慣れない生き物がいてパニックになる。
「私は、あの花の妖精よ。あなたが育てていた種は特別なもので、花が咲くと私たちは外に出られるの」
指差す先には育てていた植木鉢があり、昨日までは無かったはずのぷっくりとした花が鈴なりに咲いていた。その花は女の子の服によく似ていた。
「どういうこと?」
「難しい説明は私には無理。ほかの詳しい人にでも聞いてちょうだい」
説明を放棄した妖精はそのまま遊びに行くと飛んで行ってしまった。騒ぎを聞きつけたばあやがやってくるまでポールは固まっていた。
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