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「あの種は特殊なもので育てている者の思いを糧に成長する。それはその者の願いや夢、理想といったもので、強い意志によってはじめて花を咲かせるのだ。
今回はそれに儂の魔術で少し制約をかけた。領主としての心持ちを糧にするようにな。だから決まった形もなく、育てるものによって咲く花も違う」
花が咲いたことを報告をすると、父に呼ばれそう告げられた。
不思議な植物への驚きと共に、アランが真っ先に咲いた理由にも納得してしまった。そして自分が芽も出せなかったことにも。あの時のポールには、そんな思いは全くなかった。
「花が咲いたということは、お前にもようやっと自覚が芽生えたのだな。それでお前は上に立つ者としてどうありたい」
父に見つめられるとやっぱりまだ竦みそうになる。自分の考えを口にすることは怖い。でも勇気を持ち、顔を上げた。
「……僕は笑っている人を見ることが好きなんです」
一度深呼吸して彼らの顔を思い浮かべると少し落ち着くことが出来た。
「僕は一人では何もできません。いつも誰かに助けられている。この課題も一人では、きっと今でも芽さえ出なくて泣いていたかもしれません。でも、知恵を貸してくれた人のおかげで、花を咲かせることが出来ました。その時に思ったんです。彼らにはずっと笑っていてほしい。この地に住んでいる人が笑って夢を追えるようにしたいと」
ポールの言葉に父は頷いた。
「領主の役割とは、民の暮らしを守ることだ。そしてそれは一人では出来ない。たとえ優れた力を持っていても、人ひとりの力などたかが知れている。大きなことを成そうとする時には多くの民、臣下からの知恵を借りねばならん。そしてそれを実行しようとした時についてきてもらえるような信頼もだ。皆がついて来るように日々の研鑽は継続して行うように」
今までのやる気のない姿勢を指摘され、ばつが悪かったがしっかり頷いた。苦手なことばかりだが、もう逃げない。
「次の課題は妖精と共同で行う。準備に一日かかるので明日また来なさい」
退室を促されると礼をとりポールは執務室を後にする。一度気合を入れ直すと、遅れている分を取り戻すために自室へと急いだ。
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